凍結した精子や卵子は闘病の“希望”

聖マリアンナ医科大学の鈴木直教授(撮影=プレジデントオンライン編集部)

日本の生殖医療・不妊治療は世界でも有数の技術を持っています。その技術は、小児・AYAがん患者の妊孕性温存にも活かされるべきものです。国は、不妊治療に悩む人のために、素晴らしい助成金制度を作りました。それに加えて必要なのは、小児・AYAがん患者への妊孕性温存の助成ではないでしょうか。滋賀県や京都府など、自治体によってはすでに助成制度を整えてくれていますが、本来は国がフォローすべきことだと思います。

今もその予算を充ててもらえないか厚労省に訴えているところですが、ある職員から、「国税を使って凍結したがん患者の卵子や精子が将来的に使われなかったら、そのお金は誰が返すのか」と問われたことがあります。

妊孕性温存に踏み切ったがん患者がどれほど存在し、実際に凍結した卵子や精子を使って妊娠・出産した人がどれほどいるのか、まだデータが出ていないのでわかりません。もしかしたら、全然使われていないかもしれません。でも私は、その時がんと闘うために必要だったのなら、それでいいと思うんです。希望を持って闘ったという“希望”は、数字には表せませんから。

正しい知識と情報を適切なタイミングで知り、自分で納得できる決断をする――。若年がん患者さんのすべてが“セルフ・デシジョンメイキング(自己決定)”を成し遂げられるよう、社会全体でサポートしてほしいです。

鈴木直(すずき・なお)
聖マリアンナ医科大学 産婦人科学 教授
1990年慶應義塾大学医学部卒業、慶應義塾大学医学部産婦人科入局。1993年慶應義塾大学大学院(医学研究科外科系専攻)入学(指導:野澤志朗教授)。1996年~1998年9月米国カリフォルニア州バーナム研究所留学。1997年慶應義塾大学大学院(医学研究科外科系専攻)博士課程修了。2000年慶應義塾大学助手(医学部産婦人科学)、同産婦人科診療医長を兼ねる。2005年聖マリアンナ医科大学講師。2009年聖マリアンナ医科大学准教授。2011年聖マリアンナ医科大学教授(婦人科部長)。2012年聖マリアンナ医科大学教授(産婦人科学講座代表)。
(聞き手・構成=小泉なつみ 写真=iStock.com)
【関連記事】
「がん患者が子供を産む」は無理なことか
愛妻をがんで亡くした東大外科医の胸中
"気軽に抗生物質&ロキソニン"が怖いワケ
"申請しないと損をする"親の介護費医療費
"世界一の女性脳外科医"が欠かさない日課