「家が寒い」のは仕方がないことだろうか。東京大学大学院で建築環境工学を研究している前真之准教授は「日本の家には断熱・気密性能が決定的に不足している。この2つを向上させなければ、暖房設備を充実させてもエネルギーの無駄遣いになってしまう。人生最大の買い物である住宅においても、車や電化製品と同じように性能を重視してほしい」と提案する――。

「日本の住宅」の寒さは必ず解決できる

毎年秋が深まるたびに、日本の各地では住まいの冬支度がはじめられる。押し入れや物置にしまってあったストーブを引っ張り出して、ガスや石油を燃やして家を温める。ストーブは近寄って暖をとっている間は暖かいが、ちょっとでも離れると寒くなり、燃料の燃える匂いが室内に立ち込める。窓や床の隙間からは冷気がひっきりなしに侵入してきて足元は冷え込み、窓枠には結露がビッシリ……。

低断熱・低気密住宅で石油ストーブによる採暖を行っている室内の熱画像。温度が高いのはストーブの近くだけだ。(撮影=前 真之)

こうした不快な冬の室内環境を、多くの日本人は何か避けることのできない運命かのように、深く考えずに許容してしまっている。「冬は寒くて当たり前」「我慢して春の訪れを待とう」というわけだ。

ところが最近になって冬の劣悪な室内環境が、数々の問題をもたらすことが分かってきた。単に不快なだけでなく健康にも大きな悪影響があり、暖房にかかる燃料費は家計を圧迫する。エネルギーの浪費は日本の貿易収支を悪化させるし、排出されるCO2は地球環境に悪影響を与える。我慢は単なる問題の先送りにすぎない。日本の住宅の室内環境はきちんと解決しなければならない重大な課題であり、そして幸いなことにその解決法は明らかになっているのである。

暖房設備よりも「建物そのものの性能」が重要

近年になって冬の室内環境の問題は、建物の力で解決できることが数々の実証を通して明らかになった。日本の家には、快適な室内環境を形成するのに不可欠な「断熱」と「気密」という2つの性能が、決定的に不足していたのである。断熱性能が足りないために、窓や壁から熱がどんどん逃げてしまうため、暖房に必要な熱負荷が増大し暖房費が高くなる。気密性能が足りないために、冷たく重たい外気が建物下部から室内に侵入し、暖房で温めて軽くなった室内の暖気が建物上部から漏れ出てしまう。

部屋が寒いとなると、どうしても熱を室内に送り込む「暖房設備」そのものに目がいってしまいがちだ。しかし、建物の断熱・気密性能を向上させなければ、決して快適な室内環境は作れないし、暖房のエネルギー消費が垂れ流しとなってしまう。最優先で確保しなければならないのは、「建物そのものの性能」なのである。