一体いつ「結婚」したのか
手代になった後、大体10年以上働き、従業員として優秀であると認められれば、「番頭(ばんとう)」に昇進する。これが、従業員として最高の職位だった。先ほどの写真でいうと、右側で耳に筆を挟み、そろばんを弾いている男性が、この店の番頭である。手代に比べると、顔つきにも随分と貫禄があるように思われる。
番頭になった後、さらに業務に励み、主人の信認を獲得した者は、のれん分けが許されることもあった。商人誰もが憧れた、独立開業である。しかし、ここまで彼の人生を眺めて、ある一つの疑問が出る。彼らは一体いつ頃、結婚をしたのだろうか。
手代に昇進すると、羽織の着用や、酒、煙草などが許された。しかし、先ほど述べた通り、住居は丁稚同様、店舗を兼ねた主人の家だった。ここから推測できるように、手代に結婚は許可されなかった。
ようやく一人前となり、自分の家を持つことが許されるのは、番頭になった後である。このとき、彼らの年齢は30歳ぐらいだろう。昇進の早かった優秀な者でこの年齢なので、余り能力が高くない場合、頑張っても番頭となれるのは30代後半だった。
結婚できたとしても30歳過ぎ
そのため、雇われ商人の多くは、無事に結婚できたとしても、その年齢は30歳を過ぎていたと考えてよい。歴史人口学者の鬼頭宏氏は、江戸時代の初婚年齢に関して、次のように述べている。
この極めて整理された文章は、多くの人が江戸時代に対して持っているイメージを覆すに違いない。一般に、江戸時代、しかも農村においては、初婚年齢は相当低いものだったと思い込んでいる向きは多いはずである。ところが、実際のところ、男性は25~28歳ほどだったのである。しかもこれは、平均年齢であることに注意が必要だ。もっと上の年齢に至ってから、初めての結婚をした人も大勢いたということになる。
なお、2015年の厚生労働省統計情報部「人口動態統計」によると、平均初婚年齢は男性が31.1歳、女性が29.4歳となっている。江戸時代の平均初婚年齢は、現在より男性は3~6歳ほど、女性は5~11歳ほど若かったということになる。バラつきの大きい女性はともかく、やはり江戸時代といえども、男性はそれほど早くに結婚していなかったのである。