私の元ボス、三井信雄さんはアイデア豊富で、新しい情報を常に入手する、典型的な「動きながら考える」タイプでした。補佐役の部下は、三井さんのレクチャーを受け、その方向で徹夜をして分厚い資料をつくります。しかし、提出してみると「ダメだ!」と突き返されるのです。3ページも読んでくれたら上出来でした。失敗の原因は、私を含む部下がレクチャーを受けた内容を逐一メモしてそのまま文字化してしまったこと。三井さんはそんなことを求めていなかったのです。
私はレクチャーの聞き方をある日からがらりと変えました。きちんと聞いたうえで、「で、この人、何が言いたいんだろうか?」と反芻し、ボスの思考の“背景”を探り、考えました。どうして、○○という表現をしたのか。最近ボスは外部でどんな人と会ったのか。そんなバックグラウンドを踏まえ、ボスがレクチャーした内容とは必ずしも一致しない自分流に咀嚼した別のストーリーの資料を提出したところ……。「あ、それでいいよ」。
今では、当時のボスの気持ちがよくわかります。私はしばしばスタッフに言っています。「人の話はよく聞くこと。でも鵜呑みにしないで。自分自身で考え抜いた人が勝ちなのよ」と。
難しい課題に直面したとき、私は朝晩なく考えて考えて考え抜く。脳から血が出るほど考えます。仕事の中には、ロジックでは割り切れないこともあります。判断に迷うこともたくさんある。だからこそ私は毎秒、考える。あんまり考えるので「もう、この1時間は考えない。頭をからっぽにしてこのテレビ番組を楽しむわ」と自分に言い聞かせることもあるけれど……それでも問題意識をもっているとアンテナが反応して情報がどんどん入ってきます。