忘れられがちな「世帯合算」

高額療養費の計算は、原則的に「1カ月ごと」「医療機関ごと」「個人ごと」に行われる。ただし、「世帯合算」という仕組みもあり、同じ健康保険に加入している家族の医療費はまとめて申請できる。この申請を忘れて、損している人はいないだろうか。

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70歳以上の人の限度額は、所得に応じて6段階に分類されているが、年収約156万~370万円の人の場合、通院は個人単位で1万8000円(年間上限14万4000円)。入院した場合や世帯単位の限度額は5万7600円となっている。高齢になると、複数の医療機関を同時に受診したり、夫婦で同時期に高額な医療費がかかったりする。たとえば、夫の通院の自己負担額が1万5000円だった場合、個人単位では限度額に達していない。だが、同じ月に妻が入院して6万円を支払うと、自己負担額の合計は7万5000円。世帯の限度額が5万7600円なので、世帯合算の申請をすると1万7400円が還付されるのだ。

「70歳未満は、個人ごと、医療機関ごとの自己負担額が2万1000円を超えないと世帯合算できませんが、70歳以上は金額に関係なく健康保険が適用された医療費はすべて合算対象です」(黒田さん)

医療機関は、高齢受給者証や限度額適用認定証で患者の限度額を確認しているが、他の医療機関や家族の医療費までは把握できない。複数の医療機関を受診していたり、夫婦で高額な医療費がかかったりした場合は、世帯合算の申請をしよう。

「高額医療費」は月またぎに要注意

医師でジャーナリストの富家孝さんは、「高額療養費は、月またぎに注意が必要」だという。

「医療機関の診療報酬の請求の仕組みから、高額療養費も暦月単位(その月の1日~末日)で計算します。そのため、医療費は同じでも、治療期間が2カ月にまたがると自己負担額が高くなるのです」

70歳未満で一般的な所得の人が14日間入院し、医療費が100万円だった場合、入院期間が1月10~24日なら自己負担額は5万7600円。入院期間が1月25~2月7日だと、1月分と2月分の医療費を別々に計算するため、自己負担額が2倍の11万5200円になってしまうのだ。

「急を要する病気でないなら、医師に相談して、入院期間が月をまたがないように調整してもらうといいでしょう」(富家さん)

高齢になると高額療養費の限度額が引き下がるので、医療費の負担はそれほど心配ないが、気になるのは健康保険のきかない差額ベッド代だ。厚生労働省の「主な選定療養に係る報告状況」によると、1日あたりの差額ベッド代は6188円(17年7月現在)。これに65歳以上の人の平均在院日数をかけると、約26万円もかかることになる。

ただし、富家さんは「差額ベッド代は、必ずかかるわけではない」という。厚生労働省は、(1)同意書による本人の同意がない、(2)治療の都合、(3)病棟管理の都合、といったケースでは患者に差額ベッド代を請求することを禁止している。

「トラブルを避けるためには、親が入院したときに渡される書類にはよく目を通して、希望しない場合は差額ベッド代の同意書にサインしないことです」(富家さん)