「妻は同級生で、小学校高学年からの知り合い」

実は私と妻は同級生で、小学校高学年のころからお互いを知っていました。しかし私は途中で男子校に進学し、妻は大阪へ移っていきましたので、妻とはあまり会うこともなくなりました。付き合いだしたのは大学生になってからです。

結婚してから私はずっと心臓外科医として忙しい日々を送っていました。時には徹夜で手術をすることもあり、休みの日でも患者さんに何かあれば飛んでいくという調子で、家族はほったらかしだったのです。しかし妻はそんな私の健康を気遣って、食事などもずいぶん気をつけてくれていました。

私は身の回りのことも子供の教育も妻に任せきり。いろいろなことを妻に相談してきたし、彼女がいなくなったら自分は一体どうなってしまうのかと心配でしたが、妻をがんで失ったことで、患者の家族の気持ちがわかる医師になれたのではないかと思います。

2年に1度は夫婦でがん検診を

雑誌「プレジデント」の読者は40~50代の男性が8割だと聞きます。私の妻もそうでしたが、この世代はまだ奥さんが専業主婦だという方も多いでしょう。会社員なら会社の健康診断(健診)を受けないと叱られてしまいます。しかし専業主婦は健診を受けなくても何も言われません。そのため「もう何年も健診を受けていない」という女性がことのほか多いのです。家事や育児で忙しいこともあり、自分のことはつい後回しにしてしまう。このような方に、ご主人ができることは2つあります。

まずはぜひご主人が「健診を受けなさい」と言ってあげること。言うだけでなく、1日有休をとるなどして、「今日は自分が家のことをするから、行っておいで」と送り出すくらいのことをしてあげてほしいのです。または「一緒に人間ドックを受けよう」と誘ってあげるのもいいと思います。

もう1つは、もし奥さんが病気になったときは、治療法を調べたり、いい病院を探したりと情報収集をしてあげることです。

私の妻の場合、健診でがんが見つかったわけではありません。また健診はレントゲンや血液検査など簡単な検査が主なので、早期のがんが発見できるとは限りません。ですから40歳を過ぎたら、健診だけでなく、2年に1度はがん検診を含む人間ドックを受けたほうがいいと思います。健診には、全身の健康状態を調べるという意義があります。全身の健康状態を調べる機会は健診か人間ドックしかありません。われわれの病院(三井記念病院)でも、夫婦そろって人間ドックを受けにくるという方は全体の2割程度。男性に比べ、圧倒的に女性は少ないのが現状です。

平均寿命をまっとうできるか、それともそれより10年、20年短くなってしまうかは、健診や人間ドックに行く習慣があるかどうかで変わってきます。ご主人は奥さんの健康について責任を持たなければいけません。妻への孝行だと思って、ぜひ健診や人間ドックを勧めてあげてください。

高本眞一
外科医
三井記念病院院長。東京大学医学部名誉教授。専門は心臓血管外科。公立昭和病院心臓血管外科主任医長、国立循環器病研究センター第二部長を経て、1977年に東京大学医学部胸部外科教授に就任。2009年より現職。