2010年度の総旅客数の最終的な数字は、まだ発表されていないが、2月までの実績からしてANAが国内首位に立ったことは確実だ。日航が経営再建に向けて路線を減らしたことが影響しているが、同じ路線、同じ席種でみても、水を開け始めている。大橋は、名実ともに日本を代表する立場となったことに「総旅客数が日航を凌駕したことは、役職員一丸となっての結果であり、たいへん誇りに思う。2010年度は、アジアでナンバーワンの航空会社になるという目標年度だった。まだ顧客満足度などで首位に立ってはいないが、B787を導入し、さらなる飛躍を目指す」と胸を張る。
昨年は10月に悲願だった羽田空港の国際化が実現し、ロサンゼルス、ホノルルなどへも就航した。今年は米ユナイテッド航空やコンチネンタル航空との合弁事業が始まり、利便性が高く、収益拡大に貢献するネットワークが構築できる。そのように「国際線を収益の柱にする」としていた矢先に、大震災に見舞われた。被災地への応援部隊や支援物資を送り込むために、福島、仙台、山形などへ向けて主要空港から臨時便を飛ばしてきた。途中から、機体に「心をひとつに、がんばろう●ニッポン」のメッセージロゴを入れた。
大橋は「孟子に天の時、地の利、人の和との言葉がある。いまANAにとって、B787が入ってくるのは、まさに天の時だ。立ち上げたLCCも、ANAの地の利に育まれた。さらに、どこを切ってもANAらしさがにじみ出るような人の和で、世界で一番強い航空会社として、大震災からの日本復興につなげていきたい」と言う。
実は、3月末に体調を崩し、静養した。だが、その間も体力維持に努め、連休明けから戦線に復帰する。行きすぎた「自粛ムード」を振り払い、「危機に強い男」の本領を、また発揮することだろう。(文中敬称略)
※すべて雑誌掲載当時