「チームでビールを造る」

森田は大学を出た後、大手ビール会社をすべて受けたが、すべて落ちた。正確に言えば、1社は合格したけれど、配属がワインだったので、辞退した。

そういう姿を見ていた当時の婚約者(現夫人でよかった)が、「あなた、クラフトビールってのがあるらしいよ」と言った。それでヤッホーにエントリーシートを出し、合格。以来、醸造所に勤務している。

「私はたまたまずっと醸造所にいますけれど、うちが他社さんと違うのはスタッフが3年ごとに異動すること。何も頑固なビール職人を造ることが目的じゃないんです。企業理念にもあるんですけれど、『チームでビールを造ること』が僕らの仕事です。

スタッフはクラフトビールというビジネスの全体を理解する。そして、お客さんの顔を見た人がビールを造る。これは大手のビール会社にはできないことです。うちの強さはここにあると思っています」

醸造部門にいた人が翌日から営業担当になり、コンビニを回る。品質検査でテイスティングしていた女性スタッフが、主力製品である「よなよなエール」を出す店の接客を担当する。たしかに、こうしたことは大手では絶対にできない。ヤッホーの現場の力とは設備や製品ではなく、造る人が客の顔を見て、客が飲みたいビールをじかに聞いたことがあるということだろう。

似た商品ばかりでは消費者が飽きる

ヤッホーブルーイング井手直行社長(撮影=向井渉)

社長の井手はSNSの世界では発信力のある有名人だ。毎日、投稿している彼のコメントには100人以上の友だちが「いいね」を押す。6月に投稿された「透明ビール」についてのコメントは正論だったこともあって、反響が大きかった。

「私たちのビール業界で言うと、透明飲料は増えてきたと思っていましたが、『流行』しているという市場評価なんですね。そうすると各社、透明飲料を発売したくなるのでしょうが、本当にそれでいいのかは疑問です。だって透明と言うだけであれば誰でも造れるわけだし、差別化ができません。そういう商品が乱立していくわけです。差別化されない似たような商品ばかりになると消費者はすぐに飽きて買わなくなります。市場は急速に縮小します」

では、彼はクラフトビールを飲む客についてはどういう分析をしているのだろうか。

「比較的、若い人のほうがクラフトビールを飲んでます。大手さんのビールはだいたい50代を中心に、60、40代が飲んでいます。クラフトビールを飲む層はそこからだいたい15歳ぐらい下にシフトした30代の半ばが中心ですね。

うちの最大の課題はまだ認知されていないこと。知ってる層と知らない層がくっきり分かれている。インターネットでうまくやってきたので、ネットの世界では知名度はあります。しかし、それ以外の層にはまだ食い込んでません」