「本当に火をつけたら来て」にショック

――警察に相談はしたのですか?

ある時「明日、会社に行って火をつけてやる」と言われて恐ろしくなり、このままではいけないと、警察署の「防犯課」(今の生活安全課)に相談しました。「防犯」というくらいですから、犯罪を防止してくれるのではないかと思ったのです。しかし「警察は、起きた事件を処理するところ。相手が火をつけたら来て」と言われてショックを受けました。当時はまだ、ストーカー規制法もありませんでしたから、取り締まるための根拠もありません。警察は頼れない、自分で何とかしなくてはと思いました。

――警察以外には、誰に相談を?

当時の私は思い詰めていて、とにかく、「この人から離れられるなら何でもする」という気持ちでした。火をつけてやると言われる前から弁護士に間に入ってもらっていましたが男が弁護士を相手にせず、うまくいきませんでした。

それで、何十社もの警備会社に当たって、やっと1社、有名人でなくてもボディーガードをしてくれるところを見つけました。1カ月くらい、私と会社を守ってくれました。ボディーガードがいるのを見たストーカーの男は、捨てぜりふを吐いただけで帰っていきました。私は、初めて、「相手と私の間に入ってくれる人ができた」と思いました。

結局、ボディーガードをやってくれていた警備会社の役員が、相手の男に会って話をつけてくれて、ようやくストーカー行為が終わりました。その警備会社の役員は元警察官で、当NPOの立ち上げの時から理事をしています。

「許せない」怒りの気持ちでこの仕事に

――ストーカー被害で恐ろしい目にあった後で、この仕事をすることに抵抗はありませんでしたか?

まったくありませんでした。それよりも、私と同じ苦しみにある人を助けたいという思いが強かったです。私は子どものころ、いじめられていたのですが、その時先生にいじめを訴えても、何もしてくれなかった。そうしたつらかった経験を思い出しました。いじめられている人が、そのまま誰の助けも得られないのは何とかしなくてはいけない。人の人生の邪魔をする人は許せない。その一念でした。自分の経験から、ストーカーの関心の標的になっていることが怖かったわけで、第三者として介入するのであれば怖くないという感覚がありました。

それに最初は、ストーカーというのは、人を苦しめて喜ぶ「悪人」がなるものだと思い込んでいました。だから、「私が盾になって、そういう悪い人をやっつけてやろう」という、怒りの気持ちからこの仕事を始めました。