交渉に勝つ人はどこが違うのか。ビジネス取引に強い弁護士の矢部正秋氏は、「交渉に勝つ人は、足元の情報を深掘りしている」と話す。実際に矢部氏は事務所の賃貸契約で、5年間で計5000万円の値引きを得ることができたという。どんな手段を使ったのか――。

情報を得るには「足元を深く掘れ」

情報はしばしば足元に隠れている。足元を深く掘ると意外な事実が顕れる。「足元を深く掘れ」。これも体験から得た情報収集の大切な教訓である。

事務所のスタッフの増員に伴い、新しいビルを探すことにした。リーマン・ショックが来る6年前である。当時は勢いがあったので、高層ビルに移ることにした。不動産のエージェントに頼み、Tビルと交渉してもらった。

しかし、よい結果が出ない。2つの問題があった。

(1)5年間の定期賃貸借である(テナントは5年間解約できない)。
(2)賃料が高すぎる。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Natee Meepian)

5年間解約できないのは絶対に困る。長い年月の間には何が起こるか分からない。不景気が来るかもしれない。わたしが健康を害することもある。大手の顧客を失うこともある。定期賃貸借を外すようエージェントに依頼したが、「ダメでした。無理でした」というばかりである。

不動産のエージェントは、契約が成立するとビルとテナントの双方から手数料を取る。いわゆる「両手取引」である。だから、テナントの利益を図るとは限らない。力の強いビル側に立って、定期賃貸借を呑むように、われわれに圧力をかけているのではないか。そう疑った。

現場に足を運んで定期賃貸借を外す

ふと現場の下見を思い立った。成算があってのことではなく、Tビルがあまりによい物件だったので、諦めきれなかったのである。

現場でTビルの担当者と会ってみると、予想外に物わかりがよかった。当然かもしれない。弁護士なら定期賃貸借が不利なことを重々承知だからである。実際、顧客にはいつも定期賃貸借を外すように助言している。彼はそのへんの事情を知っているらしく、ちょっと交渉しただけで、定期賃貸借は外してオープン契約(ただし1年間は立ち退き不可)でオーケーとなった。