新人のつもりで社員と接することができるか

先程の相談者の方の話に戻りますが、相談を受け、私はさっそく同氏の凝り固まったエリート意識をぶち壊す作業を開始しました。

三條慶八『儲かる会社に変わっていく社長の全テクニック』(KADOKAWA)

「自分のデスクまわりのゴミは自分で捨てる」「仕事で使う資材がなくなっていたら発注しておく」といった「自分でできることは自分でする」という中小企業の心得から、社員の興味のあることやその家族のことなど、大企業にいた時には「少しプライバシーに踏み込みすぎているかな」と思うようなことでも、中小企業ではできるだけ個人に目を向けて話をするようにするなど、社員への接し方について話をしました。

おそらくは頭ではわかっていても、気持ちがついていけなくて悶々とされていたのでしょう、徐々に明るい表情になり、最後は、吹っ切れたような笑顔でお帰りになりました。

それから1カ月後、同氏から電話がありました。

「おかげさまで順調です。やはり中小企業は人ですね」

明るい大きな声でした。もともと能力の高い同氏のことです。中小企業マインドに気が付くことさえできれば、この会社も同氏も大丈夫でしょう。

後継者選びは結局、「確信」と「祈り」

「後継者選びは『確信』と『祈り』に尽きる」

かつて大先輩の経営者に教わった言葉が印象に残っています。

「『こいつしかいない』という確信がなければ指名はできない。確信はあっても本当に会社を守ってくれるのか、大きくしてくれるのかは不安だらけ。しかし引き継いだ以上は、あれこれ口を出してはいけない、ただ祈るように見守るほかはない」というのです。

味わい深い言葉ですが、後継者選びがいかに大変であるかと同時に、選ぶ人の眼力、見識がとても重要だということもよくわかります。

私は、相談者の悩みにできるだけお答えするように努めていますが、実は、後継者選びは慎重にお手伝いしています。社長に適任かどうかの人物評価ほど難しいことはないからです。

最もオーソドックスな方法は、複数の後継候補がいるとすれば、その中から早めに適性を見抜いて1人を後継候補に指名し、順調に育つのを見守るパターンです。その際、長い育成期間中に何が起こるかわからないので、万一を想定してリスクヘッジをかけておくことも大切です。つまり、2番目の候補も腹の中で決めておくことです。

ただし、後々に禍根を残さないために、表向きはあくまで後継候補は1人にしておくべきです。

三條慶八(さんじょう・けいや)
経営アドバイザー
1960年神戸市生まれ。負債140億円を背負った会社を完全復活させた経験に基づき、中小企業経営者に会社経営、会社再生法を伝授している。著書に『1000人の経営者を救ってきた コンサルタントが教える 社長の基本』(かんき出版)、『あなたの会社のお金の残し方、回し方』(フォレスト出版)など。
(写真=iStock.com)
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