「先日、取引銀行の支店長さんのところに挨拶に行ったら、『支店長は急に出掛けた』と女子行員がいうのです。面談のアポを取っていたのに、これはショックでした……」

大学時代には金融工学を専攻し、最初の就職先が大手都銀だった同氏にとっては、考えられない対応でした。おそらく、それまで銀行に頭を下げたこともないに違いありません。

「中小企業に転職する以上、ある程度は覚悟していたのですが、これほどギャップがあるとは思ってもいませんでした。また、それ以上につらいのが社員との関係でした。『余所者上司』と思われたのか、何かにつけ冷たくあしらわれ、すっかり会社で頑張る気がなくなってしまいました」

それまでの価値観とは180度違う世界にいきなり飛び込んで、カルチャーショックが抜けないまま1年が過ぎてしまったようです。

ぬるま湯にいたことを思い知る

実は、こうした相談は非常に増えているのです。今回のケースでは、大手企業の一流技術者が実家の中小企業を継いでいますが、うまくいかなかった最大の理由は、どうしても社員を上から見下ろしてしまうためです。

「えっ、ロース指令(編集部注:ヨーロッパの有害物質使用制限指令。特定有害物質の含有を禁止し、リサイクルの容易化、廃棄物の無害化、削減を目的にする)も知らないの?」

仮に本人にその気がなくても、ちょっとした不用意な言葉や態度に現場の社員は敏感に反応します。中小企業における社長と社員の関係は、大企業における管理職と部下の関係とはまったく別物なのです。

社長の意識が大企業時代のままであれば、いつまでたってもお互いの信頼関係は築けません。最悪の場合、愛想をつかしたベテラン社員たちが新会社を設立してこれまでの顧客を奪い合うことにもなりかねません。

社員との無意味な感情の軋轢を避けるには、一流のプライドをきれいさっぱり捨てて、「中小企業の親父さん」になりきるのが一番なのです。