短い文章の読み書きばかりではAIに負けてしまう
オックスフォード大学が2013年に発表した「10年後になくなる仕事」には「データ入力作業員」「電話販売員」「検査作業員」などが挙げられていた。一概には言えないが、単純作業やマニュアル化された仕事はAIやロボットが代行できるだろう。
しかし、ビジネスパーソンが報告書やプレゼンテーションの資料を作成しようとした時、多くの顧客データを分析したり、市場調査するための専門書を読んだりする。そして、相手が納得できるレベルの論理的な文章をまとめなければならない。必然的に読む文章量(インプット)も書く文章量(アウトプット)も長くなる。
そうした一連のプロセスをトータル的にこなすのは、AIでもそう簡単ではないはずだ。そう考えると「長い文章を読み、長い文章を書く力」が求められる仕事という柳沢校長の指摘は、核心を突いていると思われる。
ポイントとなるのは、扱う文章の「長さ」なのだ。大人も子供もツイッターやLINEなどショートメッセージの送受信に明け暮れる現代人は、そうした「長さ」対策を怠ってしまう傾向にあるのかもしれない。
でも逆に言えば、親が子供に「長い文章を読む力」を与えてやることができれば、たとえAIに仕事を奪われても、自分で本を読み、新しいテクノロジーや考え方を吸収して変化の早い時代に対応していけるのだ。
話を聞いてあげると、読解力や作文力は育つ
わが子に「長い文章を読み、長い文章を書く力」を養うには、どうしたらいいのだろうか。やはり、たくさん読書をさせて、作文教室などに入れるべきだろうか。
これにも柳沢校長は意外なアドバイスをしてくれた。
「大事なのは『子供が話す』ことだと思います。つまり、話し言葉で表現した時に、きちんと相手に伝えることができるようにする。それはどういうことかというと、論理的であるということ。つまり、『いつ』『どこで』『だれが』『なにを』『なぜ』『どのように』をしっかりと入れて話すということです。こうしたことができるようにするには、子供が話している内容を真剣に聞いて、わからないことがあったら、親が質問する。これを繰り返すうちに、わかりやすく話すには5W1Hの説明が必要だと自然と理解するようになります。当然、わかりやすい文章も書けるようになります」
5W1Hをしっかり押さえて話すことが大事だとわかった子は、本を読む時もそれを意識して読めるようになる。今、描かれている場面は、いつのことなのか。「私」はどのように思っているのか。気持ちに変化があったのはいつなのか。それはなぜなのか。こうしたことを確認しながら読むということが、文章の論理構成を把握することであり、読解力につながっていく。
「家庭でもっともやるべき教育というのは、子どもに話をさせることだと思っています。多くの家では親ばかりが話してしまっていて、子供の話を聞いてあげられていないんです。だから、私はしばしば学校(開成中学・高校)で保護者の皆さんに『2:1の原則』でいきましょうと伝えています。子供に2話させて、親が1話しましょう、と」(柳沢校長)