別の考え方もあります。マスターズの60歳のフルマラソンの世界記録保持者の保坂好久さんは遅咲きで、毎日1キロの下り坂を5本全力で走るというトレーニングを40歳からずっと続けているそうです。歳を重ねてタイムが落ちてきても、毎日愚直に同じことを繰り返す。それをやり続けるメンタルはすごいと思いますが、僕にはとても真似できません。僕はつねに新しいことを試したい。そこにおもしろみを感じる性格だからです。

結果が出ているときほど実は頑張っていないもの

陸上の長距離走から始まった長い競技生活を振り返ってみて、自分が本当に強かった時期は、努力しているとか頑張っているという感覚がないことがわかりました。とくに無理をしなくても、ごくごく自然な流れの中で、一つの目標に向かって集中しているから、実はリラックスできている。こういう状態にいるときこそ、自分のパフォーマンスが最大になっているのです。

クヨクヨ悩んだり、つらすぎてやめたくなったり、ということを考える間もなく、無我夢中でやっていたら、いつのまにか強くなっていた。

もちろん長い人生なので、つねにその状態でいられるわけではないのですが、実はいま、その感覚を取り戻しつつあります。「50歳でUTMB」という一つの目標に向けて、新しいトレーニングをいろいろ試しながらも、気持ちがすごく集中できている実感があるのです。

鏑木 毅(かぶらき・つよし)
プロトレイルランナー
1968年、群馬県生まれ。群馬県庁で働きながら、アマチュア選手として数々の大会で優勝。40歳でプロ選手となる異色の経歴を持つ。2009年、世界最高峰のウルトラトレイルレース「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(通称UTMB、3カ国周回、走距離166km)」にて世界3位。現在も世界レベルのレースで常に上位入賞を果たしており、50歳でのUTMB再挑戦を表明。主な著書に『極限のトレイルラン』(新潮社)などがある。
(写真提供=トレイルランニングワールド)
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