カリスマ経営者が去った後を市場は注視してきた
カリスマ経営者と言えども、いつまでも経営トップに居続けることはできない。どこかで経営のバトンを次世代に引き継がなければならない。鈴木氏が汚点を残したのは、当時の社長兼最高執行責任者(COO)であった井阪氏の解任案に創業家や社外取締役、主要株主の賛同を得られなかったことだ。
鈴木氏は井阪氏のリーダーシップを疑問視していたという。退任会見の場で鈴木氏が井阪氏の手腕を批判したこともあり、セブン&アイ中興の祖である鈴木氏の退任は、同社の先行き不安を高めた。
それは株価の動向を見れば一目瞭然だ。鈴木氏がグループの経営から退いた後、セブン&アイの株価は4000円台半ばでもみ合ってきた。そこから示唆されることは、カリスマ経営者が去ったセブン&アイがどのように業績を伸ばすかを慎重に見極めようとする市場参加者が多かったということだ。
株価が大きく下落しなかった背景には、鈴木氏が築いた基盤が強いため当面の収益獲得は何とかなるとの見方もあっただろう。鈴木氏退任後のセブン&アイの経営を、「熟練の船頭を失った船」と言い表すベテランアナリストもいた。
成長の柱は米国のコンビニエンスストア事業
現社長の井阪氏は、日米のコンビニ事業をグループの成長の柱の一つに位置付けてきた。現状、米国事業は好調だ。背景には、米国経済の好調な推移がある。昨年12月、トランプ政権は連邦レベルでの法人税率を35%から21%に引き下げる税制改革法案を成立させた。この結果、企業業績が拡大し、賃金も緩やかに増加している。トランプ大統領は、もともと好調だった米国の経済を減税によって押し上げたということだ。
その結果、第1四半期、米国事業の商品売り上げは1000万ドル増加した。また、米国でガソリンの小売り価格が上昇したことも増益を支えた。それに加え、買収の効果もあった。今年1月、セブン&アイは米中堅コンビニエンスストアのスノコから1030店舗を買収した。この戦略は堅調な米国の個人消費の取り込みにつながり、営業利益を1500万ドル程度押し上げた。
一方、グループの利益の6割程度を占める国内のコンビニ事業は、人件費の増加から営業利益が増えていない。ここが同社の課題だ。