インフレはさらに加速し、景気は一段の悪化へ
ただこうした措置は、本来なら淘汰されるべきゾンビ企業の延命につながり、経済の新陳代謝が悪化する。また政府による信用保証といったスキームが採用されれば財政の悪化につながるし、日本の金融円滑化法の様な措置が実施されれば銀行の財務体質が悪化して金融不安の深刻化を呼び起こしかねない。
それでもエルドアン大統領が選挙での勝利を優先してバラマキ色が強い政策を実施するなら、リラ相場は下落を余儀なくされる。リラが暴落した8月10日に記録した1ドル7リラをさらに下回る展開も十分予想される。そうなればインフレはさらに加速し、景気は一段の悪化を余儀なくされるだろう。
エルドアン政権は、地方選と通貨安のバランスを見つつ、中小・零細企業に対する何らかの支援策を採ってくると考えられる。そのバランスがどのように振れるかで、リラが先行き一段安に向かうか、あるいは上昇まで至らずとも落ち着きを取り戻すかが決まると言えよう。
残念ながら、エルドアン政権による経済運営が早期に正常化する展望は描きにくい。そうした中で、リラが上昇に転じたとしても一時的であり、結局はリラ安に歯止めがかかることはないだろう。むしろリラがもう一段安を目指すシナリオを想定しておく方が、現実的と言える。
相場や景気に楽観的な見方は禁物
リラが再び暴落すれば、通貨安の波が新興国を襲うだろう。既に危機的であるアルゼンチンに加えて、南アフリカ、ロシア、ブラジルなどが通貨危機に陥るかもしれない。インドネシアのような一見関係がない東南アジア諸国の通貨も下落が進むはずだ。前回のトルコリラ急落時にも生じた通貨危機の波が、再び生じる可能性が高い。
激しさを増すばかりの米中の貿易紛争や英国の欧州連合(EU)からの離脱協議の不調を受けて、世界の金融市場は緊張感を高めている。こうした中、新興国で通貨危機の波が生じれば、世界的な株価の暴落につながるはずだ。それが深刻であればあるほど、日本を含めた世界各国の景気は悪化を余儀なくされる。
日本では、心地良い水準にあるドル円レートや高値圏にある株価を受けて、相場や景気に楽観的な見方が支配的だ。しかしながら、欧州や新興国ではさえない株価や通貨を受けて、次の金融危機に対する警戒感が着実に高まっている。備えあれば憂いなし、過度な楽観は禁物である。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。