大手がやらないインバウンド領域

【田原】「じゃらんnet」も「雪マジ!19」もうまくいった。なのに、どうしてリクルートを辞めちゃったの?

【加藤】やりたいことができるなら、大企業の中でサラリーマンとしてやっても、外に出てベンチャーでやっても、どちらでもよかったんです。リクルートでやっていたのは、昔はベンチャーでやる環境が整っていなかったから。ここ数年はベンチャーの資金調達環境が劇的によくなって、社内でスポンサーを探して予算を取ってくるほうが難しくなっていました。それなら外に出て自分でやったほうがいい。もう1つ、リクルートはキープヤングの会社で、現社長の峰岸真澄さんは40代で社長になりました。独立したとき、私はすでに40代で、社長になる目はない。社長になりたかったわけではないのですが、このまま会社にいても意味はないという思いもあって、外に出ました。

田原総一朗●1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。本連載を収録した『起業家のように考える。』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【田原】リクルートを辞めて、WAmazingを設立される。訪日外国人を対象にしたサービスをやっているそうですが、インバウンドで起業したのはどうしてですか?

【加藤】私が起業したのは16年7月でしたが、15年は訪日外国人が1974万人。18年に3300万人というのは見えていて、将来的に20年は4000万人、30年は6000万人と予想されています。ところが、日本の大手旅行会社がインバウンドの波をうまくつかまえているかというと、そうでもない。そこにベンチャーの勝機があると考えました。

【田原】大手旅行会社はインバウンド、うまくいってないの?

【加藤】イノベーションのジレンマでしょう。既存の旅行会社の売上比率を見ると、97%が日本人が対象。残り3%に本気になれないでしょうし、本気になっても国内市場とは大きさが違うので、簡単にはいかないのだと思います。

【田原】大きさが違うって、どういうことですか?

【加藤】国内市場は半数以上を50歳以上の方が占めています。だから吉永小百合さんを広告に起用するし、広告も新聞やテレビといった4大メディアが中心。それに対してインバウンドの8割はアジアからの訪日外国人で、アジアは平均年齢が若い。日本の平均年齢は48歳ですが、アセアンではタイが30代で、20代の国も多い。彼らはデジタルネーティブで、紙の新聞は読みません。年齢層やマーケティングチャネルが違うので、日本の大手は訪日外国人をうまく取り込めていないのです。

【田原】取り込めなくても、3%だから痛くない?

【加藤】どうでしょう。いまのところインバウンドの市場規模は約4.5兆円で、国内は21兆円。しかし、20~30年のどこかで逆転が起きると予測されています。そうなると、本気にならざるをえないのではと。