一方、アマゾンのCCCはマイナスだ。つまり、物が売れる前から入金されているのだ。じつは、マイナスなのは、そんなに珍しいことではない。身近なところでは、その場でお金が受け取れる飲食業などで、CCCはマイナスである。材料や人件費などの支払いが後になるためだ。日本の若者がラーメン屋に新規参入しやすいのも、先にお金が入り、開店時の資金が他に比べて多く必要ない点にある。

たとえば、CCCがマイナス10日だとしよう。その場合、銀行からの借入などもちろん必要なく、10日の間、販売代金を自由に使える。製品を作る前からお金が入っている状態なのだ。

成長の持続を達成しやすい構造

ちなみに、CCCがマイナスであることが、いかに有利なのかを示す例がある。縮小傾向にある出版業界と、勢いのあるウェブメディアの違いだ。

成毛眞(著)『amazon 世界最先端の戦略がわかる』(ダイヤモンド社)

日本の出版社のCCCは、一般的にプラス180日だ。日本の出版社では、卸を通して、だいたい出版から6カ月後に入金されるのが慣例だ。しかし、ネットメディアはCCCがマイナス、もしくはプラスでもかなり短い。まず、会員サイトの場合、会員費は前払いなので、その分マイナスになる。また、事前に広告を取ってくるとこれもマイナスだ。あるいはウェブ広告がクリックされたらその瞬間(遅くても平均15日後くらい)に入金される。広告自体も、クライアントが作ってくれるから、こちらの費用はゼロである。

ネットメディアの方が、活動するためのキャッシュが構造的に早く入ってくるのだ。ウェブメディアがあっという間に拡大した理由がわかるだろう。

ちなみに、米アップルのCCCは、経営危機に陥った1993年度から1996年度まではプラス70日程度だった。しかし、復帰したスティーブ・ジョブズが経営の実権を握ると、CCCは改善傾向をたどり、現在はマイナスで推移している。

アップルのCCCの劇的な改善の背景には、在庫の削減や商品の絞り込み、また、アップルに部品を供給するサプライヤーとの取引条件の変更の可能性が高い。在庫がなくなればお金になるということだから、通常、CCCをマイナスにするには、在庫管理の見直し、あるいは商品の絞り込みをする。アップルは、これを徹底し、2001年度以降はおおむねマイナス20日前後を維持している。

CCCがマイナスで推移するということは、製品を作る前から入っている資金を「iPhone」などの開発や販促につぎこむことができるということで、成長の持続が達成しやすい。