たとえば、純利益が赤字になっている2012年度は、投資キャッシュフローは35億9000万ドルのマイナスだ(表は設備投資にあてた額だから少し数字が違う)。前年度が19億3000万ドルマイナスだから、大幅に上回っている。
投資キャッシュフローとは、キャッシュフロー計算書の項目のひとつで、設備や株(有価証券)などに投資したり、売却したりした額のことだから、基本的にはマイナスの方がいい。ここがマイナスだと、好調の企業であると捉えられる。積極的に投資しているということだからだ。もし、これが反対にプラスならば、経営が不振で資産を売却して現金化しているということで、手元の現金が不足している可能性が高い。
しかし、いくら投資キャッシュフローがマイナスの方がいいと言っても、思い切りがよすぎる。通常だと考えられない。積極投資はその後も続いており、2017年度は280億ドルもマイナスだ。
ちなみに、この姿勢は、設備への投資に集中して見られる。設備は、2015年度に約45億ドル、2017年度には約100億ドルを投資している。つまりアマゾンは、信じられないくらいの額のキャッシュを持っており、ここ数年、日本円にして、年4500億円から1兆円の超大型の設備投資を続けているのである。
「物が売れる前から入金」がある強み
では、こうした巨額投資がなぜ可能なのだろうか。もちろん、EC(電子商取引)サイトやその他の事業の売上が好調なのはある。しかし、それだけでは説明ができない額でもある。その謎を解く鍵となるのが「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」である。
聞き慣れない言葉だろうが、CCCとは仕入れた商品を販売し、何日間で現金化されるかを示したものである。このCCCは、小さければ現金を回収できるサイクルが短いということで、手元にキャッシュを長い時間持つことができる。つまり、CCCは小さければ小さいほどよい。
たとえば、小売世界最大手のウォルマート・ストアーズの場合、CCCはプラス約12日である。商品を仕入れて販売して、代金を回収するまでに約12日を要するということだ。小売業界の一般的なCCCはプラス10~20日程度である。
通常、売上代金を受け取るまでの運転資金は、銀行からの借入などで用意する必要がある。プラス12日で回収できるといえども、売上が大きくなればなるほど、1日に必要な運転資金も大きくなる。売上高が年間5000億ドル規模のウォルマートであれば、その12日間は、決して軽い負担ではない。日本円にして年間60兆円の売上の12日分は2兆円である。ウォルマートは、この2兆円を自己資金か借入金などで捻出しなければならないのだ。