金融機関のトレーダーなど「判断力」を求められるエリートには、「肉」を好み、定期的に「運動」する人が多い。その理由は「テストステロン」というホルモンの影響かもしれない。順天堂大学大学院の堀江重郎教授は「筋肉をつけるためにスポーツクラブに通い、肉を食べれば、テストステロン値が上がり、判断力が向上します。ビジネスエリートの行動は理にかなっています」という。自身の「脳力」を高める食事のポイントとは――。

※本稿は、堀江重郎監修『元氣食堂 肉とマカとテストステロン』(プレジデント社)の巻頭記事「テストステロンを高める、おいしい処方箋」の一部を再編集したものです。

堀江重郎氏(順天堂大学大学院教授)

テストステロンは「筋肉」と「判断力」に不可欠

男性の健康医学を研究する研究者、医療関係者により構成される「日本Men’s Health医学会」において、注目テーマの一つとして取り上げられる機会が多いのが「テストステロン」です。日本では「男性ホルモン」と言ったほうがなじみがあるでしょうか。

テストステロンは主に睾丸(精巣)でつくられます。でも、最近の研究によってわかってきたことなのですが、脳の「海馬」という記憶を司るところでも、ガンガンつくられているんです。

このことは、東京大学名誉教授で順天堂大学客員教授でもある川戸佳先生が世界で初めて解明しました。しかも海馬にあるテストステロンの濃度は、血中にあるものより高い。女性も海馬では、男性に迫るくらいに相当な量のテストステロンをつくっています。

テストステロンは、「筋肉」や「判断力」に欠かせません。言い換えれば、テストステロンを増やせば、元気で決断力のある仕事や人生を送れるというわけです。また、テストステロンがすごく高い人は、みんなに好かれます。魅力があるんです。

それだけではありません。テストステロンは、狩猟をする、旅に出る、新しいことにチャレンジするという「冒険のホルモン」であり、仲間や家族、あるいは縄張りや集団を守る「社会性のホルモン」でもあります。

さらには、ゲーム(麻雀、囲碁、将棋)やスポーツ、仕事などにおいて戦う「競争のホルモン」でもあるのです。ほかにも我慢できる、ボランティアや寄付をする、公平・公正を求める、不安を感じにくいといったことにも寄与します。

まさに、できるビジネスパーソンとして活躍するには不可欠なホルモンであり、ひとかどの“男”として魅力を高めるのにも有効なホルモンです。このテストステロンを高める要素の一つとして、「リスクをとる」ということが挙げられます。

リスクをとる人はテストステロン値が高い

今の世の中でリスクをとる人の代表格といえば、金融界で活躍するトレーダーたちです。実はロンドンのシティで活躍するトレーダーについての研究があります。

ケンブリッジ大学が行ったもので、17人のトレーダーを対象に、11時と16時の唾液を採取してテストステロン値を測定しました。その結果は、「テストステロン値が高い人は儲けが多い」というもの。この研究はリーマンショック(2008年9月)の前に行われたのですが、これを受けて、「自分がお金を預けている人が、テストステロン値が高いかどうか」ということが真剣に論じられていました。

ただこの話には、オチがあります。「テストステロン値が高い人は、儲けも大きいが、損も大きい」ということです。要するに、それだけリスクをとっているということ。手堅いスタイルとは反対で、大きくヤマをはるわけですね。

テストステロンは不安を感じにくくすると言いましたが、じつは「鈍感力」の源にもなっていて、他人の言うことが気にならない方向へと誘ってくれます。だからテストステロン値を高めれば欝病にもなりにくい。しかも、打たれ弱いのをカバーしてくれるのがテストステロンでもあるのです。

一方、テストステロンは加齢とともに低下します。テストステロンが低下すると人間はどうなるでしょうか?