日常生活での時間の共有が大切

ところが問題は典型的な症状でない場合である。これは医師でさえ、専門家でなければ見落としてしまうこともある。身体症状といって、体の異常を訴える場合は、他の病気だと思うことが多い。たとえば、頭痛、めまい、吐き気、手足のしびれ、時には頭のしびれという訴えが、うつ病が原因のことがある。こういった症状が主体で医者にかかれば、胃腸や脳の検査ばかりになって、その治療薬を飲んでも、症状はいっこうに改善しない。

また、部屋の中が散らかっている、文句ばかり言う、仕事に集中できなくなる、無表情で感動もしなくなってしまうなどの症状もうつ病で起きる。体調が悪いのだろうくらいに考え、そんな重症なうつ病とは思わないことがあるのだ。

うつ病の発見は、周囲がいかに本人に関心を持ち、愛情を持って接しているかである。親子間に距離があれば、早期発見が難しくなってくるからだ。人付き合いが少なければ、周囲の人がおかしいと気がつくこともない。またパソコンに向かって仕事をすることが多ければ、人に会わずに毎日が終わっていくので、他人が変化に気がつくことがない。

うつ病の早期発見は、家族との絆の深さともいえる。常に家族で話をする時間を持つとか、リビングルームでテレビなどを一緒に見るというような、時間の共有が非常に大切だ。デンマークでは毎日家族と一緒に本を読む時間を持つという。そんな生活習慣はうつ病の早期発見につながっているのではないだろうか。

家族の心の変化を見つけるのは、家族の愛情があってこそである。また、専門家に相談することがもっとも、治癒への近道であると理解すべきだろう。

(坂井 和=撮影)