安倍晋三首相と石破茂自民党元幹事長の一騎打ちの構図となってきた自民党総裁選。安倍氏優位との見方が支配的だが、双方とも国会議員と党員という「有権者」集めに神経をとがらせている。そんな中、現職首相として3選を目指す安倍氏のスタイルが物議をかもしている。安倍氏と議員たちとの会合を秘密にしておく「ステルス戦術」とも言われるこの手法。それでいいのか――。
2018年7月25日、自民党岡山県連関係者(左から2人目)による西日本豪雨に関する緊急要望書を受け取る安倍晋三首相。このあと夜に、山口県議らと非公表の懇談を行ったと報じられている。(写真=時事通信フォト)

「何を根拠に……」楽勝説を退ける安倍氏

「何を根拠に圧勝というのかな」。安倍氏は最近、こんなセリフをよく口にする。安倍氏の周りには老壮青を問わず、自民党議員が群がる。安倍氏が総裁選で3選すると見こし「流れは決まった」「確実に勝てる」などと耳打ちして勝ち馬に乗ろうとしているのだ。

安倍氏も、その場では笑顔で応じるのだが、議員が去ると「何を根拠に……」というぼやきが出る。自分のご機嫌を取って人事で重用してもらおうという思惑が見え透いているので苦々しく思っているということもあるが、安倍氏は本当に自分の勝利に確信を持っていないというのも事実だ。

自民党幹部や、内閣情報調査室の幹部らが、どれだけ精緻なデータを報告しても、安倍氏はなかなか信用しない。それだけ3選を重くみており、わずかなスキもつくらないようにしようとしている。2006年、圧倒的支持で首相に祭り上げられながら、1年後には国民からも自民党からも見放されて転がり落ちた経験のある安倍氏は、うつろいやすい権力のリアルを知っている。

自身の出身母体である細田派と麻生派、二階派の「主流3派」で国会議員の約半数を占めているため、議員に対する多数派工作は主に無派閥の若手。同時並行で地方議員への働き掛けも続けてきた。平日は都内で、週末は地方に出向き地方議員たちと顔を合わせてきた。来春には統一地方選がある。安倍氏とツーショットの写真を撮れば自分の選挙に有利になると考える地方議員の心理を巧みにくすぐりながら運動を進めてきた。