目立つ自社ブランド育成のノウハウ

MTGはブランドの育成がうまい。MTGは自社を“ブランド開発カンパニー”と定義している。ブランドとは、企業と顧客の間で共有された価値観だ。「MTGの製品を使えば、きれいになれる」と顧客が期待するとしよう。MTGは、その期待に応える製品を提供する。実際に満足できると、顧客はMTGの製品を使い続ける。ブランドは企業と顧客の信頼関係を支える。

シックスパッドは2015年の発売から約2年で100万台を販売した。そのヒットの理由を考えてみよう。EMS製品はこれまでいくつもあったが、シックスパッドは他にはない強烈な印象を人々に与えた。

洗練されたデザインは「よくある電気刺激を用いた腹筋トレーニング機器とは違う」というイメージを抱かせる。クリスティアーノ・ロナウド選手がシックスパッドを使っているシーンを見ると、「かっこいい」「有名選手が使うのだから、かなりの効果があるはず」といった反応も多いのではないだろうか。MTGはそうしたイメージをまとめ上げ、消費者に「これは違う」と思わせるのがうまい。

シュンペーターの提唱した“新結合”を体現

またシックスパッドは、40年以上EMSを研究してきた京都大学の森谷敏夫名誉教授の理論をベースに開発している。京都大学や中京大学と製品の効果検証を行い、学会で研究成果の発表も行った。機能面でも最先端のテクノロジーや、プロアスリートのトレーニング・メソッドなどを実装し、従来のトレーニング機器のイメージを刷新したといえる。

これは、オーストリア出身の大経済学者、シュンペーターの提唱した“新結合”に他ならない。MTGは、すでにある要素(トレーニング機器や美顔ローラーなど)に、新しいテクノロジーを結合した。それによって、同社はこれまでにはないユーザーの満足感(シックスパッドを使い、体が引き締まることを実感できる喜びなど)を生み出すことができた。

加えて、MTGのプロダクトは、販売価格が高い。たとえばシックスパッドは、腹筋用の「アブズ フィット2」が通常価格2万5800円。ウエストおよび腕、脚用の「ボディ フィット 2」が1万9800円。これに加えて、定期的に取り換えが必要なジェルシートも用意しないといけない。著名人を起用したプロモーションを行うために費用が掛かるのは言うまでもない。それに加え、わたしたちは「高いものはよい」と、ついつい考えがちだ。その心の働きまで活用しているのだろうか。