10年ほど前、幸福感の定量的な研究に関するリュボミルスキ教授の研究結果を知って私は、彼女のもとを訪れ、共同実験を行うことにしました。ある企業の研究開発プロジェクトに集まった技術者たちに、名札型のウエアラブルセンサーを装着してもらって、仕事中の心理的な変化と身体の動きを同時に測定したのです。
すると、幸福度と身体活動との間には関係があるということが確認されました。これを発展させて、幸福と相関する身体運動のパターンを見出したのです。
ただ重要なのは、幸福感と相関する行動自体は千差万別で、人により条件により異なります。たとえば、コミュニケーションが多いほど幸福感が高まる場合もあれば、少ないほど幸福感が高まる場合もあります。身体運動の特徴が、幸福感と普遍的に相関する一方で、どうすれば幸福感が高まるかは、状況に応じて変えるべきことなのです。
だから、一律のやり方を全員が実行するのは意味がなく、実データの計測や解析を使って、それぞれの人に有効な施策を常に見出し、実行することが有効なのです。
自分を伸ばすのは「少し上」の課題
やる気というのは、行動を起こし没頭することによって初めて生まれるのであって、何もしないで自分の中を探しても見つかりはしません。
米クレモント大学のミハイル・チクセントミハイ教授は、仕事やスポーツで高いパフォーマンスを上げている人たちを研究するうちに、「時間の過ぎるのを忘れる」「自分と周りが一体化する」「自分の思うように対象をコントロールしている」といった共通の状態を彼らが体験していることに気がつき、これを「フロー状態」と名づけました。人は何かに没頭すると、しばしばこのフロー状態を経験します。これは、目の前の行為をやりがいのあるものと感じ、自分の能力を最大限に発揮している状態です。
日常生活や仕事中にこのフロー状態を体験する頻度が多いほど、幸福感が高い傾向があります。
では、どういう状況に置かれると人はフロー状態に入りやすいのでしょうか。
簡単にいうと、自分の能力より少し上の課題にチャレンジしているときです。課題が難しすぎると不安が先立ち集中できないし、逆に簡単で余裕がありすぎると飽きてしまいます。ミスをするのが嫌で、できることしかやらないというのを習慣にしている人は、知らぬ間に自分を幸福から遠ざけているという事実に気づくべきです。