LINEの社長だった森川亮が、「C CHANNEL」を起業して3年がたった。C CHANNELは10代から20代の女性をターゲットにした動画メディアだ。いま利用者を急速に増やしており、国内だけでなく、中国、韓国、台湾、インドネシア、タイなど、アジア10カ国で展開している。今年5月には、中国最大手のベンチャーキャピタル、レジェンドキャピタルからの投資を受け入れ、中国市場での展開を加速させる計画だ。
事業は軌道に乗りつつあるが、なぜLINE社長という地位を捨てて、ゼロからの起業を選んだのか。森川はその理由を「若い人が大きな夢を描き、チャレンジすることを当たり前にしたかった」という――。(前編、全2回)/聞き手=三宅玲子
C Channelの森川亮社長(撮影=門間新弥)

「就職したい企業・業種」の1位が国家公務員

森川:若い人たちが夢が描けない時代です。LINE時代に若い世代に向けた講演を数多くしてきましたが、だいたい将来に対して悲観的で、やりたいことより、安定を求める傾向があることに驚きました。

「就職したい企業・業種」を聞いたアンケート調査でも、1位が国家公務員、2位が地方公務員だそうですね(※)

※リスクモンスターの「第4回 就職したい企業・業種ランキング調査」(2018年3月、対象は大学3年生の男女500人)によると、1位が国家公務員、2位が地方公務員、3位が日本航空(JAL)、4位が全日本空輸(ANA)、5位が日清食品だった。

公務員を目指す人の大多数は「安定」を志向しているのでしょう。背景には、親や祖父母の意向があるようです。経済成長が滞り、先行きの見えない時代です。子どもや孫の将来を考えると、安心できる職業は公務員しかない、ということなのでしょう。子どもも、そうした親たちの意見を素直に聞いてしまう。

僕はそれはよくないことだと思っています。

人口減で市場が小さくなっていく時代に、社会で優先される価値が「安定」だとすれば、その国は滅びてしまうからです。

僕はこうした現状を変えたい。だから僕らは、大きな夢を描き、それに向かってチャレンジすることが当たり前の社会をつくりたいと考えています。「C CHANNEL」は、「大きな夢を描いてチャレンジする」というビジョンを、行動で示すための手段のひとつです。

新しいことは男性よりも子供や若い女性のほうが受け入れる

森川は著書『我慢をやめてみる』(朝日新書)で「農耕文化を色濃く受け継いでいる日本人は、本質的に「共同作業」に優れている反面、人と違うものへの発想や異物を受け入れることを得意としない」と書いている。

戦後、焼け野原となった日本からは、革新的な企業が次々に誕生した。だが豊かな社会となり、いつしか変化を嫌うようになった。既存の企業は新しい価値を生み出さなくなっている。そこで森川は、「これから新しい価値を創造するのは『起業家』だ」と考え、起業の道を選んだのだという。

森川:僕は日本を元気にしたくて、「C CHANNEL」を創業しました。LINEにいてもできたでしょう? と聞かれることもありますが、LINEはアジア、ヨーロッパまで広範に展開する外資系企業です。日本のために仕事をするのは難しい状況でした。日本を元気にするためには、日本発のグローバル企業をつくらないと意味がない。だからイチから起業することを選びました。

事業として女性向けの動画メディアを選んだのは、新しいことは男性よりも子供や若い女性の方が受け入れてくれるからです。ソニーやホンダが日本のベンチャーの代表だった時代と違って、現代はモノよりコトの時代となり、体験にこそ価値があるというふうに変わりました。

ビジネスで言うと、技術よりアイデアの時代です。自分が何が好きかではなく、マーケットインの視点でとらえると、おのずと市場が求めているもの、どこにニーズがあるのかは見えてきます。女性向けの動画メディアはニーズがあると僕らは判断しました。LINE時代の経験を生かして女性向けのメディアでアイデアを具現化することをめざしています。