※本稿は、夏野剛『誰がテレビを殺すのか』(角川新書)の一部を編集部で再編集したものです。
ネット情報がテレビの先を行く時代
ネットが人々の生活の隅々にまで浸透した結果、社会の動きとネット上で騒がれていることが完全に一致する状況がかなり一般化してきています。社会で起きている事象の多くが、ネット上で最初に可視化されるという時代に突入したのです。
例えば、流行や最新ファッションの伝播(でんぱ)は、インスタグラムなどの会員制交流サイト(SNS)から生まれ、それによって世界的なトレンドになったりします。また、おいしいレストランに行きたいときも、ネットを見れば実際に行ったことのある人の報告が投稿されているので、リアルな行動に基づいた情報を仕入れることが可能です。
ネットが誕生する前までは、こうした情報はテレビ局があちこちを歩き回りながら一生懸命探っていました。その情報を番組の中で紹介し、世の中の多くの人たちが知るというサイクルだったのです。ところが今や、個人によってネット上で明かされる情報が先を行き、テレビは完全に後追いをしています。
玉石混交とはいえ、ネット上の情報が豊富になってくると、テレビの制作側はネット上で懸命にネタ探しを始めます。ただし、ネットからネタを集める際には注意を払わなくてはいけません。制作側がネット素材を集めて安易な方法で番組を作ったりすると、ネタ元がすぐにバレてネガティブフィードバックが起こり、「炎上」を誘発することがあるからです。
一方で、ネット発のネタからポジティブフィードバックが起きることもあります。例えば、スーザン・ボイルやポール・ポッツのように、これまではチャンスに恵まれずに世間に埋もれていた才能が発掘され、メジャーデビューを果たして世界的な人気歌手になるケースも生まれるのです。
テレビとネットはとかく反目し合うライバルのように言われることが多いのですが、実は共依存の関係になっている部分も多々あります。踏み込んだ発言をすると、テレビはすでに、壮大なネット文化の中の一部として取り込まれてしまったのかもしれません。
50代までの人たちは、こうした感覚に触れながらテレビとネットの両方を見ているので「テレビはもはやネット文化の一部」という考え方もすんなり理解できます。しかし、テレビのメイン視聴者である60代以上の人たちの大半はそうした感覚を持ち合わせていないため、テレビ制作者側は視聴者がネット利用者であることを前提としたコンテンツづくりを実行することができません。