(1)なら寿司ネタを魚種に応じて最適に捌くには、寿司職人の技が必要となる。(2)なら、ネタを捌くには、皮をはぐ動作、水でしめる、調味料で下処理する、湯がく、干す、などの連続であり、それも、素材により必要なものとそうでないものが入り混じる。(3)なら、たとえば、寿司ネタにより入荷時間や入荷方法が異なり、それに合わせて入荷作業を行い、バックヤードにストックすることが必要となる。

たった1人の人間が、これだけ多彩なことを受け持つ。だから、それを全部メカトロニクスに置き換えることが難しいのだ。これらに対して作業ごとにメカトロを組んでいたら、何十もの機構が必要で、とんでもなく高額な機械となってしまう。しかも、場所も取るだろう。そして、そこまで投資しても、機構によってはほとんど使われない(たとえば、「湯がく」という機構はハモなどの一部の魚にしか必要ない)。

職人の仕事を機械化するまでには15年

海老原嗣生『「AIで仕事がなくなる」論のウソ』(イースト・プレス)

こうした多彩な仕事を機械化するためには、1つの機械が人間のようにすべてを万能にでき、また新しい作業が発生してもそれを後づけで学べる、「汎用AI型」のロボットが必要となる。とすると、本格的な省力化が始まるのはその第一弾として全脳アーキテクチャ型AIが登場し、それがロボティクスと結びつく時代だろう。たぶんそれが市場に出回るようになるのは15年程度先と読む。

さて、ではそれまでの間、流通サービス業はどうやって人手不足をしのぐのか。1つは、サービスレベルの低減が選択肢となるだろう。それはスーパーの「セルフレジ」などに代表される「顧客自らが作業をする」仕組みだ。その分、店舗側も人件費が削減できるから、セルフレジ使用者には値引きをする、というインセンティブをつけて、そちらに誘導することで実現が可能だろう。すでに、ガソリンスタンドではセルフサービスとフルサービスが併用され、セルフ利用者には値引きがなされている。中国などでは無人コンビニもかなり浸透している。そこそこ規模の大きい日用品量販店では、こうした方向での人員削減が浸透していくだろう。