史上最年少市長の「スタートアップ都市」宣言

シアトル訪問からちょうど1年後の2012年9月、高島は「スタートアップ都市・福岡」を宣言した。当時は「スタートアップ」という言葉は日本ではまだあまり浸透していなかった。それでもあえて「スタートアップ都市」をスローガンにしたのは、高島が新しい流れに敏感なアイデアマンだからだろう。

制度面では、第2次安倍政権が2013年に創設した国家戦略特区が渡りに船となった。地域限定で大胆な規制緩和や税制優遇を認めて経済活性化を狙う政策であり、2014年5月に全国6地域が特区指定を受けた。その中の一つに福岡市が選ばれ、「グローバル創業・雇用創出特区」と位置付けられた。福岡の場合は「スタートアップ特区」と呼んでもいい。

「スタートアップ特区」指定とタイミングを合わせる形で福岡市が打ち出した目玉政策が2014年10月にオープンした「スタートアップカフェ」だ。正確にはカフェというよりもカフェを核にした起業のエコシステムだ。

福岡・天神地区にあるスタートアップカフェの入り口(撮影=牧野洋)

高島は若い市長だから若者の感性を理解できるのかもしれない。あるいはテレビアナウンサー出身だから市民目線でいられるのかもしれない。「若い起業家は堅苦しい市役所の窓口に行って公務員に相談しようなんて思わない」という彼の一言をきっかけにスタートアップカフェが生まれたのである。

スタートアップカフェは大成功だった。オープンしてから1年以内でスタッフが1300件以上の相談を受け、数百件のイベントに8000人以上が参加した。相談件数は週末も含めて1日当たり3.5件。カフェを利用して実際に立ち上がったスタートアップは36社に上った。「堅苦しい市役所の窓口」のままだったらありえない展開だ。

これを受けて、スタートアップカフェは全国的に広がる兆しを見せている。2016年10月に関西大学の梅田キャンパス内に「スタートアップカフェ大阪」が誕生したのに続いて、2017年1月には東京・丸の内に「スタートアップハブ東京(TOKYO創業ステーション)」がオープン。いずれも福岡の本家スタートアップカフェのコンセプトをまねている。

「日本の外に出れば危機感しかない」

「スタートアップ都市」宣言の経緯を見ればわかるように、高島は世界の動向を常に注視している。そこから学び取り、危機感を失わないようにしている。何よりも恐れているのは「井の中の蛙(かわず)」になることなのだ。インタビューの中で次のように語っている。

「人口増加率にしても開業率にしても、福岡は国内主要都市のなかではナンバーワン。でもここで満足するつもりはさらさらないですね。日本の外に出れば危機感しかない。外を見ると中が見えてきます。つねに新しい発見があり、なぜ満足したらだめなのかわかるんです。だから一段とスピードを上げて、どんどんチャレンジしていきます」