ただ、電子部品や産業用の製造機器の需要は伸び悩み始めている。2017年は世界のスマートフォン出荷台数が、前年の実績を初めて下回った。スマートフォンは世界に浸透し、需要が飽和しつつあるということだ。その分、設備投資の増加率は穏やかになる可能性がある。すでに、世界最大の半導体製造装置企業である米アプライドマテリアルズは、今後の売り上げ減少見通しを示した。スマートフォンの画像センサー需要を取り込んで経営を立て直したソニーの業績見通しも、市場予想を下回った。国内の設備投資が期待されたほど増えず、経済成長率も抑制される可能性がある。
世界経済のリスク要因=米国の政治と円高
その他にも、国内経済の成長率を抑制するリスク要因がある。代表例が、米国の政治動向だ。11月の中間選挙に向けて、トランプ大統領は有権者の支持を増やしたい。そのための手段は、中国などとの通商問題を取り上げ、強硬姿勢をとることだ。
3月に知的財産権の侵害を理由に対中制裁措置を発動して以降、トランプ大統領の支持率は上昇している。中間選挙に向けて通商問題が取り上げられるのは米国政治の恒例行事だ。今後は、一段と強硬路線が強まりやすい。
そうなると、米中貿易戦争への懸念から、金融市場ではリスク回避が進むだろう。為替相場では足元のドル買いが巻き戻され、ドル売り・円買いが増えるだろう。それが円高リスクを高める。円高は国内経済にマイナスだ。また、米国がわが国に農業や自動車分野での市場開放を求めることも考えられる。米中貿易戦争への懸念が高まる中で、わが国は想定外の圧力を受ける可能性がある。このように考えると、1~3月期のマイナス成長が天候不順による一時的な景気の落ち込みであると結論付けるのは早計だ。
発展性がある分野にヒト・モノ・カネを再配分せよ
そうしたリスクに対応するためには、国内の需要を高めるしかない。金融・財政政策が限界に直面する中、政府は構造改革を推進しなければならない。それは、社会の変化に応じて、規制の緩和や制度の改変などを行うことだ。
構造改革は、民間企業の“アニマルスピリッツ(成長、利益などを追求する血気)”を高め、新規事業への進出などを促進するために不可欠だ。具体的には、ロボットやネットワークテクノロジーなど発展性がある分野にヒト・モノ・カネを再配分し、新しいヒット商品などの創出を目指すことが求められる。
官民が連携して構造改革を進め、社会全体でイノベーションが進めば、景況感も随分と違ってくるだろう。足元、世界経済全体で緩やかな回復基調が維持されている。その環境を生かして、労働市場の改革などを進め、成長分野に資源がシフトしやすい社会基盤を整備する意義は大きい。口で言うほど容易な取り組みではないが、改革が進めば、回復の恩恵をより実感できる環境が実現するだろう。