北朝鮮の「平昌五輪外交」の末に、5月までに開かれる見通しとなった米朝首脳会談。だがここに来て、その雲行きがどうも怪しい。北朝鮮国内では会談に関する報道は一切なく、金正恩氏もずっと沈黙。米政府内でも会談に向けた関係各所の協議や準備チームの結成は行われておらず、トランプ氏が会談で話す内容も決まっていないという――。
金正恩・朝鮮労働党委員長からの米朝首脳会談の誘いに、即座に同意したトランプ米大統領。だがここにきて、会談の実現そのものを疑問視する声が出てきた。(写真=EPA/時事通信フォト)

金正恩の沈黙は何を意味しているのか

北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長が3月8日、平壌を訪れた韓国特使団に対し、ドナルド・トランプ米大統領との首脳会談を提案してから3週間以上がたちました。

その間、金委員長は沈黙を守っています。北朝鮮メディアは20日、「米朝関係に変化の機運が出てきた」と、米朝首脳会談が開催される見通しになってから初めてアメリカとの関係について報道しました。しかし、会談についての直接的な報道は依然として行っていません。

なぜか。ワシントンの外交専門家の間では、金委員長はトランプ大統領が首脳会談に即座に応じるとは予想していなかったからではないか、といった解釈が出ています。

加えて、「『朝米対話の議題として、非核化も論議できる』という発言を、北朝鮮の一方的な核放棄と米側に受け取られてしまったことに当惑したのではないのか」(主要米シンクタンク上級研究員)との見方が出ています。北朝鮮はこれまで「軍事的脅威が取り除かれ、金体制の安全が保障されれば、核を持つ必要はない」という立場をとってきました。つまり、従来通りのスタンスを別の言葉で述べただけなのに、というわけです。

核・ミサイル開発は北朝鮮にとって、対米戦略における唯一のカードです。それを破棄するような決定を、金委員長の一存でできるはずもない。いくら独裁体制とはいえ、北朝鮮国内、特に軍部強硬派は黙ってはいないでしょう。

一方のトランプ大統領のほうはどうか。「(非核化に)合意できるまで(対北朝鮮)制裁は続けるが、(米朝首脳)会談は計画中だ」とツィートはしています。一見、会談に意欲を見せているそぶりを見せています。