ただし、白鵬がほかの力士と違うところは、体が大きくなるに比例して、自分でどんどん勉強したことです。体に自信が漲ることで、やる気も芽生えてくる。相撲が強くなるためのあらゆることをする。例えば取組の録画を、1時間でも2時間でも凝視しています。特に自分の相撲を見ます。対戦相手の分析ではなく、自分の相撲のよし悪しをチェックする。一種のイメージトレーニングですね。横綱に上がっても、自分は未熟だと思ってる。だから歴代の横綱の話を聞きたがります。大鵬さんに相談に行ったり。貴乃花親方や九重親方とも熱心に話します。上にいけば苦しみも増えてくる。それを経験者に聞きにいく。私の指示じゃない。白鵬が考えてやってることです。

大相撲の弟子の育成法は、上から怒鳴りつけて、とにかく厳しく、というのが王道です。そのうえで、自分で勉強する人間じゃないと伸びません。やらされてやらされて、それをこなすだけでも強くなりますが、それから自分で考えて工夫して、猛稽古に身を投じていく。そういう力士が出世します。

指導法ということだと、厳しさと優しさのメリハリでしょうか。タイミングです。優しく接する時期と、鬼になって厳しく躾ける時期と。弟子の段階に応じて、こっちも指導法を変化させなくてはいけない。そのためにはいつでも弟子の様子を観察していなくてはいけません。屋上で泣いているのを知っていて、そのときにはなにも声をかけない。あとで話すときがくれば話す。

嬉しいと思ったのは、白鵬は部屋のちゃんこを自慢に思ってることです。あれだけ無理に食べさせられたら、嫌いになってもおかしくない。でも白鵬は宮城野部屋のちゃんこが一番だとあちこちで話す。しなやかな体躯のベースが部屋のちゃんこでできていると感謝されているようで。優勝や大関、横綱に昇進したときももちろん嬉しかったですが、部屋のちゃんこを褒められるのは格別です。