自動運転の普及が電気自動車の普及を促進

また、自動車業界の新たな潮流としては自動運転の普及だ。特定の条件下で無人運転が可能なレベル4、完全無人運転できるレベル5の自動運転車は、自家用以外に、運転手のいないロボタクシーやカーシェアリング(※1)、ライドシェア(※2)などの自動車のオンデマンドサービスでも使われるようになっていく。BCGの予測では、2035年の時点で新車販売台数に占める自動運転車の割合は23%。このうち自家用車とロボタクシーの割合はほぼ半々だ。これは、2025年までに自動運転車に対する規制が施行される、自動運転車のシェアリングサービスが開始される、自動運転車の部品コストが、類似のテクノロジーと同様のスピードで下がっていく、と仮定した場合である。

自動運転が普及することで、ロボタクシーなどのオンデマンド・サービスが普及すれば、その経済性がさらに進むと考えられる。多くの人が今よりも気軽に移動できるようになり、全体の移動距離も伸びていく。ちょっとした買い物のような、現在は自動車を使っていないシーンでも、玄関先まで迎えに来てくれる安価になったロボタクシーを使って移動することも考えられるからだ。

※1 登録を行った会員の間で、特定の自動車を共同利用するサービスあるいはシステムのこと。
※2 自動車の所有者・運転者と、目的地に移動するために自動車の乗りたいユーザーを結びつけるサービスあるいはシステムのこと。2010年に米国で開始された「Uber」を中心に、世界的に広がりつつある。

利益が生み出される領域は大きくシフト

先ほど乗用車の新車販売台数が2025年頃に横ばいに転じると予想したが、自動車市場全体は今後も成長していく見通しだ。ただし、成長が見込まれるのは主に、今はまだ存在していない、または市場が極めて小さい分野である。

2017年の自動車業界を眺めると、既存ビジネスが利益の大半を占めていた。具体的には「従来の部品」「新車販売」「ファイナンス」「アフターサービス」などが利益の大半を占め、その合計額は2260億ドル(約23.9兆円)に上っていた。

この構造が、2035年になるとガラリと変わる(図表2)。旧来の新車販売がもたらす利益は減少し、代わりに電気自動車の販売やその部品、コネクテッドカーなどのデータ関連サービス、カーシェアやライドシェアなどのシェアリングサービスがもたらす利益が増大する。自動車業界全体の利益は3800億ドル(約40.3兆円)に膨らむ見込みだが、既存プレイヤーにとっては、そのプロフィットプール(利益がうみだされる領域)が新分野に大きくシフトしていくため、頭が痛い。

プロフィットプールが拡大していく新領域では、新規参入も相次ぎ、競争はますます激しくなっていくだろう。バトルゾーンには、日本でもすでにソフトバンクやNTTドコモなど、通信分野で実績のあるプレイヤーが参入してきている。加えて、アメリカやドイツの自動車会社も恐れつつ警戒しているのが、巨大市場を背後に控えた中国自動車産業の動きだ。

日本の自動車会社にとって、優位性を獲得している既存のプロフィットプールが減少していく一方で、今後はさらに「自動運転技術」「バッテリー生産設備」「充電インフラ」「自動運転タクシー車両」など成長分野への積極的な投資が求められるようになっていく。これら成長分野に対する投資は2030年までに自動車産業全体で9000億ドル(約95.5兆円)以上必要と試算しており、2035年までにはそれが2.4兆ドル(約254兆円)以上に膨らむ見通しだ。一方で、自動車会社の利益は今後減少すると考えられる。2017年の自動車会社の売上高利益(EBIT)率は、2017年の6.6%から、2025年には約1%ポイント減の5.5%になると予測される。自動車会社にとっては、利益が減少する一方で巨額の投資をせまられるという「ダブルパンチ」となる。