「一人ぼっち」が心身をむしばむメカニズムとは

では、孤独はなぜ、どのような作用によって人体にこれほどのダメージをきたすのだろうか。

*イメージ写真です。写真=iStock.com/blew_i

人間は「社会的動物」である。個人は絶えず他者との関係において存在している。古代から、人間が敵と戦い自らの生存を担保していくためには、何より、他者との結びつきが必要だった。敵を倒すために共に戦う。食べ物を共に確保し、分け合う。そのつながりから放り出され、孤立することはすなわち「死」を意味していた。

「孤独」という「社会的な痛み」は、のどの渇きや空腹、身体的な痛みと同じ脳の回路によって処理され、同等、もしくはそれ以上の苦痛をもたらす。そのつらさを避けようと、水を飲んだり、食べ物を口にしたりするように、孤独な人も「苦痛」から逃れるために、自らつながりを求めるようになる。これが人を孤独から遠ざけようとする、本能的なディフェンスメカニズム(防御機能)の基本的な仕組みだ。

社会性を持った動物は、身体的な痛みと孤立、どちらを選ぶのか、という選択を迫られた時、身体的な痛みを選ぶのだという。刑務所において「独房監禁」が最も残酷な罰の一つであることを考えれば、納得がいく。

▼孤独の常態化は最も残酷な「独房監禁」と同じ

孤独が常態化すると、その「苦痛」に常にさらされることとなり、心身に「拷問」のような負荷を与えてしまう。身体のストレス反応を過剰に刺激し、ストレスホルモンであるコルチゾールを増加させる。高血圧や白血球の生成などにも影響を与え、心臓発作などを起こしやすくする。遺伝子レベルでも変化が現れ、孤独な人ほど、炎症を起こす遺伝子が活発化し、炎症を抑える遺伝子の動きが抑制される。そのため、免疫システムが弱くなり、感染症や喘息などへの抵抗力が低下し、病気を悪化させる。

シカゴ大学のジョン・カシオッポ教授らによれば、「孤独は敵の襲来にたった一人で立ち向かわねばならないことを意味し、脳を「サバイバル(自己保身)モード」に変える。人間は『サバイバルモード』においては、ウイルスと戦うのではなく、バクテリアと戦うようにプログラミングされているため、ウイルス耐性が下がり、がんなどへの免疫力が落ちる」という。

また、いったん孤独になり、自己保身本能にギアが入ると、もう一度、人とつながることを極端に恐れるようになる。一度拒絶された「群れ」に戻ろうとすることは、再び、拒まれ、命の危険にさらされるリスクを伴うからだ。それよりは、何とか一人で生きていく方が安全だ、と考えて、閉じこもりがちになってしまう。

また、慢性的な孤独下に置かれた人は、他の人のネガティブな言動に対して、極度に過敏になったり、ストレスのある環境に対する耐性が低くなったりする。さらにアンチソーシャル(非社交的)になり、孤独を深めていく、という悪循環に陥ってしまうのだ。

中高年の男性は「孤独が好きだ」「孤独を楽しむのだ」と引きこもる人が多いが、それは、傷つくことを怖れる、ある種の自己防衛メカニズムが働くからだろう。孤独はまさにアリ地獄。一度入り込むとなかなか出てこられない。

毎日、食事に気を付けたり、お酒を控えたり、禁煙をしたり、ランニングをしたり……。皆さんもそれぞれに健康には気を遣っていることだろう。しかし、そのすべての効果を打ち消してしまう可能性があるのが「孤独」なのである。そのビール一杯を我慢する前に考えていただきたい。今、あなたは孤独ではないか。将来、孤独になる可能性はないか、と。