1発ミサイルを撃ち込まれても反撃できない
日本は言霊の国だから言葉に弱い。
「思いやり予算」という美しい言葉を発明して在日米軍の莫大な駐留経費を日本が負担し、「駆けつけ警護」などという凜々しい言葉でPKO活動などに派遣された自衛隊員が武器を携帯できるようにした。憲法9条の条文自体、どう読んでも戦争放棄と戦力の不保持、交戦権の否認を規定しているのに、解釈を曲げて引き伸ばして世界第5位ともいわれる軍事大国にまで引き上げた。
日本は軍事に関して言葉の力を借りて乗り越えてきた側面が強いが、象徴的な言葉が防衛政策の基本とされる「専守防衛」だろう。「相手から攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その様態も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢」と防衛白書では説明されているが、つまりは憲法9条の縛りの中から捻り出された造語だ。
「専守防衛」でどこまでできるか。たとえば日本がミサイル攻撃を受けた場合に「敵基地を叩くことは可能」とする過去の国会答弁もある。ただし、相手が明確な意志を持って攻撃してきたことを確認しなければ「反撃」できない。1発ミサイルを撃ち込まれても「撃ち間違い」や「誤作動」の可能性があるから反撃できないのだ。
さて、今日、日本は現実に北朝鮮の核とミサイルの脅威にさらされている。
もし北朝鮮が日本に中距離ミサイルを撃ち込んできたら、日本は迎撃できるのか。通常の弾道で発射してきたなら1発、2発を撃ち落とすのは可能だろう。しかし、高高度のロフテッド軌道で発射してきた場合にはまず迎撃できない。
2017年12月、地上配備型の迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の導入が閣議決定された。1基1000億円ほどのイージス・アショアを2基導入して北と南に配備すれば日本全土をカバーできるというが、相手が中距離ミサイルを20発も撃ってきたときにはすべてを迎撃しようがない。つまり想定される北朝鮮の攻撃に対して、専守防衛は不可能なのだ。まかり間違って中国やロシアから核弾頭付きの大陸間弾道ミサイル(ICBM)でも撃ち込まれようものなら、もう完全にお手上げである。
北朝鮮はアメリカ本土を射程に収めるICBMの発射実験に成功したと発表している。しかし張り子の虎かもしれないし、本当にアメリカ本土に撃ち込んだら一巻の終わりであることは金正恩氏もよくわかっている。約1000発の短距離ミサイルがソウルを狙っているが、韓国に手を出した場合の反動も半端ではない。韓国軍の手強さも知っている。そう考えると、北朝鮮にとって一番確実で抵抗が少ないターゲットは、一発撃っても反撃できない日本なのだ。彼らも日本を攻撃対象にしていることを明言している。