※本稿は、ハリエット・レーナー(著)、吉井智津(翻訳)『こじれた仲の処方箋』(東洋館出版社)の11章「心の平和を見つけるには」を再編集したものです。
脳は苦しみを繰り返すという反応をしてしまう
悪いことをしても謝らない相手が、絶対に責任を認めようとしないとき、私たちの脳は、苦しみを繰り返すという反応をしてしまう。傷ついた側の怒りは理にかなったものかもしれないが、それは生産的な問題解決にはつながらず、ただ脳の中に大きくネガティブな溝をつくり、睡眠の邪魔をするだけだ。
けれど、もし、怒りや憎しみの対象に向かう自分の心を抑えたり、怒りを背景に押しやろうとしたりすれば、予想もしていなかった新たな課題が立ちはだかってくるかもしれない。場合によっては、古い怒りにしがみつき、その重みを背負いつづけているほうが、楽なこともある。
私のカウンセリングを受けにきたカトリーナの例を見てほしい。
5年間も遠距離で続いていた不倫関係
カトリーナには結婚して15年の夫がいたが、その夫は、IT業界で大成功を収めると、すぐに彼女のもとを去ってしまった。彼女のほうはそれまでずっと彼を愛し、常に彼の仕事を支え、起業したばかりの会社の仕事に彼が集中できるように、自分のキャリアの機会を犠牲にして娘の育児を全部ひとりで引き受けた。シカゴからロサンゼルスへ移ることを彼が熱望したときにも、渋々ながらも同意して彼についていった。
夫が離婚の申し立てをし、大手広告会社の若くて美しく、金もあるマーケティング・ディレクターの女性を家に連れてきたのは、引っ越しから8カ月後のことだった。カトリーナがあとで知ったのは、ロサンゼルスへの転居の動機は、もとはといえば5年間も遠距離で続けていたその女性との関係にあったということだった。
結局彼女は、娘の親権は取れたものの、彼が雇った敏腕弁護士の活躍により、本来受け取ってしかるべき額よりずっと少ない慰謝料で合意書にサインすることになった。
カトリーナが言うには、彼女は、彼を許し、前に進む方法を見つけたいが、ある理由があってできない、とのことだった。
「彼を許したら私は踏みつけられ、ぐちゃぐちゃになるまで打ちのめされる気がするんです。一番つらいのは、私には彼が私にしたことを世間に知らしめる場がないことです」
こう言って、少し間を置き、さらに続けた。「変に聞こえるかもしれませんが、でも、本当に殴っていてくれたらとまで思うんです。そうすれば罰することができるのに」