AIが糖尿病や高血圧の患者に服薬を働きかける
AI医療で今もっとも研究が進んでいるのが、この深層学習の技術を用いた画像診断支援だ。コンピュータ断層撮影法(CT)や核磁気共鳴画像法(MRI)などの画像を大量に読み込ませることによって、AIは例えば「がんらしい」特徴のある画像を自動的に識別できるようになる。
最終的な診断を下すのはもちろん人間の医師だが、AIが画面上で怪しい箇所を指摘することで、診断の精度や効率は飛躍的に上がる。現在さまざまな企業や大学病院で、心臓病、がん、網膜の病気などへの応用が進められており、「画像診断では現時点でAIが人間の能力を上回っているというのが、研究者や医療関係者の間でコンセンサスになっています」と原氏は言う。
また、過去の膨大な研究論文を読み込んで、診断が難しい病気の判定を支援する研究も進められている。2016年には東京大学医科学研究所で、2000万件以上のがんに関する論文を学習したIBMのAI「ワトソン」が、特殊なタイプの白血病を見抜いて患者の命を救った事例があった。
「識別」とともにAIの応用が期待されているのが、病気の進行や患者の行動の「予測」と、それに基づく治療への「介入」だ。「特に、糖尿病や高コレステロール血症、高血圧などの生活習慣病とは相性がいいと思います」と原氏は言う。これらの病気は長年かけて徐々に進行し、かつ患者やその予備軍自身の行動に病状が大きく左右されるからだ。
識別
CTやMRI、内視鏡の画像を分析し、病気の有無や進行の把握を支援。検診データや問診情報を分析して病気の有無を識別。
予測
健康診断のデータや現在受けている治療の内容を時系列的に分析し、その人がある病気を将来発症する確率や、発症後の進行を予測。
介入
識別や予測に基づき、介入の必要性を担当医に示したり、スマートフォンのアプリでユーザーに服薬や行動改善を働きかけたりする。