なんでも「県頼み」の機構理事と病院幹部医師
平成30年2月5日、副理事長と理事の計4名の理事会構成員と、県立がんセンターと県立こども医療センターの病院管理者2名の職員である業務執行理事の計6名が、緊急声明を発表し、同時に県知事に、任期途中の理事長解任を要請した。それは理事長の以下の行為が主な理由だという。
2.平成30年2月1日、理事長が厚生労働省に提出した「医道審議会における審議対象事案と思われる事例に関するご報告」が、「大川病院長らの事実に基づかない行為とともに、当該行為が行政処分に該当する旨を、厚生労働省に報告した」こと。
3.土屋了介理事長は、(平成30年)2月2日付けで、病院機構の内部手続も経ず、明確な説明もしないままに、大川伸一病院長を降格させる人事異動を発表したこと。
これらの指摘事項が問題であると考えるのであれば、副理事長や理事は、定款14条2項の規定に基づき理事長に対して理事会の開催を要求できる。県が「県とは別の法人」と認めているのだから、理事長に非があれば、まずは、理事会においてそれを正すのが副理事長と理事と監事との職務である。なぜ、いきなり県知事に嘆願するのだろうか。嘆願するほうも、受けるほうも、地方独立行政法人法の趣旨を理解しているとは思えない。
また、この声明文には根拠となる資料なり証拠が添えられていない。元県職員の副理事長以外の5名は医師であるので、論文を書くには、その主張の根拠となる診療録、実験データの記録、規則、既存の論文などを示すことは当然理解しているはずである。
しかしながら、県の調査報告書は、呼び出された関係者が提出した資料や発言は一切採用することなく、大川伸一病院長と副知事との「放射線治療医が大量退職した原因は理事長が放射線治療科部長を研修に出したからである」との結論を追認する報告であった。したがって、論点の1つひとつに対し、既に調査委員会に提出してあった証拠書類を根拠に反論文を作成し県の調査委員会委員長である保健福祉局長宛に提出するとともに、記者会見にて発表した。これらの書類は県に開示請求されると得ることができるはずである。
パワハラ医師の下での研修は不可能
大川伸一元病院長は、重粒子線治療の経験は神奈川県立がんセンターでも研修可能であると説明し、県保健福祉局の県立病院部長は「経験の明確な基準はない」と発言している。しかしながら、当該医師が神奈川県立がんセンターで重粒子線治療を経験するには、自らが、臨床試験には協力せず、また、学会や研究班からの情報を伝えない等のパワーハラスメントを行っていた野宮琢磨・重粒子線治療科部長の指導の下で、「当該療養を主として実施する医師又は補助を行う医師として10例以上の症例を実施しており、そのうち当該療養を主として実施する医師として5例以上の症例を実施」しなければ実現できない。パワーハラスメントを行っている後輩の医師の下での研修は不可能である。
なお、大川元病院長は野宮部長が訴える当該医師によるパワーハラスメントを無視し、当該医師は他の放射線治療医が野宮部長に協力しないようにさせた。このよう状況を見かねて、理事長である土屋了介が、放射線医学総合研究所重粒子医科学センター元センター長で、現在、粒子線がん相談クリニックの専従医であった辻井博彦氏に非常勤で神奈川県立がんセンター重粒子線治療施設のセンター長に着任していただき、野宮部長と2人で重粒子線治療施設を運営していたのである。
また理事長解任の理由として「病院機構の内部手続も経ず、病院長の降格人事を行った」とあるが、これも事実に反している。私は就業規則の条文に従って、人事異動の理由を説明した後、大川病院長に人事異動通知書を読み上げて聞かせた後に、発令した。地方独立行政法人法、定款及び規程に基づいた正しい発令である。
ほとんどの参加者が寝ているような会議
私は神奈川県立病院機構の理事長に着任後、その経営実態があまりにもずさんなことに驚いた。ひとつは月次ごとの費用を把握していなかったことだ。
平成26年4月1日の着任直後、4月第二火曜日の最初の理事会は、前年までの進行を踏襲したほうがいいかと考え、県からの3年目の出向職員である事務局長に進行を任せた。月次報告は5病院の収益額を細目に至るまで、どこを強調するでもなく淡々と1時間ほど続き、ほとんどの参加者は下を向き書類を見ているのか、寝ているのかわからない状況であった。
収益の報告が終わって、議長として質問を求めたが、特に質問も異議もなかったので、次に費用の報告を求めた。すると、財務部の担当者が、「費用は6月の理事会にて報告します」と回答した。「2月の費用を報告するのが、6月になるのか」と質問すると、「年度決算は6月の2回目の理事会での承認になります」との回答だった。月次報告は、前々月の収益を報告するもので、月次ごとの費用を把握していなかったのだ。しかも、収益についても、状況が概観できる会議資料としてまとめたものではなく、素データとでも呼ぶような項目ごとに金額の一覧表にすぎなかった。
一方、費用に関しては予算書に載っていれば、該当する事業の収益が落ち込んでいようが、予算額までは現場からの要求に応じて支出していた。これでは、リアルタイムの経営状況の把握は困難であり、年度末に大赤字で慌てるようなことにもなる。