会計制度の信頼回復の処方箋
けれども、お金は理論や制度だけで動いているわけではない。むしろ、因業深い人間模様のなかにこそ、その本質はあるのかもしれない。
このタイミングで『ナニワ金融道』を勧めるのは、新銀行東京の経営がおかしいから。03年に、資金調達に悩む中小企業を救済する目的で誕生したものの、開業初年度から赤字決算になった。そして、杜撰な融資で多額の貸出金が焦げつき昨年、東京都は400億円を追加出資し、世間の指弾を浴びた。
日本の銀行は、優良企業には低利で担保融資をしてきた。その一方で、債権管理リスクの高いところには貸し渋る。そこに資金を回してきたのが、このマンガに登場するマチ金(消費者金融)業者である。彼らは銀行にない“人間関係”という回収機能を持っている。本人が破産しても親も兄弟もおり、そのつながりに貸し、シビアに回収していくのだ。
90年からの週刊誌連載が単行本化されると、銀行の支店長室にバックナンバーが並んだという。社長の人柄や事業手腕に金を貸すというのは、銀行が持っていた思想のはずである。金融屋のほうが、本来のバンカーに近いというのは、なんとも皮肉な話ではないか。
分野は異なるが、出色の本だと感心したのが『泥の文明』だ。文化比較論だが、欧米と日本の会計に対比させて読んでいくと面白い。
土が少なく、掘ればすぐに石にぶつかるヨーロッパは「石の文明」で、狩猟が生きる手段にならざるをえない。それは現在の利益を重く見る時価会計に通じるところがある。一方、土と水に恵まれ、農耕による定住が可能な日本の「泥の文明」は、ロングスパンで考える原価主義ということもできよう。
今回の金融危機を振り返ると、競争が行きすぎた欧米の時価会計は明らかに失敗だった。会計制度の信頼性回復の処方箋は、日本が伝統的に行ってきた原価主義にあることを教えてくれる。