他人を理解しようとしすぎない

人付き合いでは、お互いに相手を理解しようとつとめます。しかし、どんなに親しい間柄であっても、相手は他人ですから、理解できる範囲にはおのずと限界があることは知っておかなければいけません。

ところが、現実にはそのことを忘れてしまうことが少なくないのです。たとえば、恋の渦中にいる男女は錯覚に陥りやすいといえます。

「彼は私のことをすべてわかってくれている。私も彼のことを完全に理解している」

たしかに、本人はそう思っているのでしょう。しかし、生まれた場所も、育った環境も、受けた教育も、付き合ってきた人たちも違う人間どうしが、完全に理解し合うことなどできるはずがないのです。

あなたの理解は思い込みではありませんか?

理解しているというのは思い込み、錯覚でしかありません。しかも、恋愛中は相手に合わせようとする意識が働きます。一緒に食事をする場合でも、ほんとうは自分が和食派でも、相手がイタリアン好きなら、レストランでの食事が多くなったりする。そこでこんな思い込みが生まれるわけです。

「彼もイタリアンが好きなのね。食事の好みが同じでよかった」

デートにしても、いつも街に繰り出しているからといって、相手が“行動派”とはかぎりません。こちらに合わせてくれているだけで、実は部屋でのんびり過ごすことが好きということだってあるのです。行動派と“理解”するのは思い込みです。

そうして、「そんな人だとは思わなかった」というお決まりのフレーズが登場するわけです。

しかし、非は一方的に相手にあるわけではありません。思い込みを理解と勘違いした自分の非をこそ、きちんと受けとめるべきでしょう。

繰り返しになりますが、他人を理解することには限界がある、理解には勘違いが起きやすい、ということを胸に置いておきましょう。そうであれば、“理解”とは違う相手の実像があきらかになっても、柔軟に受けとめることができます。

「理解していた彼とは違ったけれど、それは当然ね。これからはそういう彼の新しい一面も大切に受けとめて付き合っていこう」

同じ出来事でも解釈が変わります。そのようにして、少しずつ相手に対する正しい理解を積み上げていく。これは、恋愛関係にとどまらず、個人的な人間関係すべてに共通する、有効なメソッドといえます。

枡野 俊明(ますの・しゅんみょう)
「禅の庭」庭園デザイナー、僧侶
1953年、神奈川県生まれ。大学卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした「禅の庭」の創作活動を行い、国内外から高い評価を得る。芸術選奨文部大臣(当時)新人賞を庭園デザイナーとして初受賞。ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章を受賞。2006年、「ニューズウィーク日本版」にて「世界が尊敬する日本人100人」に選出される。曹洞宗徳雄山建功寺住職、多摩美術大学環境デザイン学科教授。著書に『スター・ウォーズ 禅の教え』(KADOKAWA)、『禅シンプル生活のすすめ』(三笠書房)などがある。