格差の拡大が叫ばれる日本。不景気が長期化し、給料の絶対額も減少気味だ。しかし日本を世界の国々と比べたらまったく違った姿が見えてきた。

こうした現象を目の当たりにすると、とても東京の物価水準が世界で4番目に高いとは思えない。恐らく、他の要因が東京の物価水準を押し上げていると考えられる。

その原因のひとつとして考えられるのが、為替レートだ。同レポートは、基本的に米ドルを用いてさまざまな比較計算をしているため、為替レートの変動も、物価を計算するうえで加味される。ちなみに米ドル/円レートは、07年6月時点で1ドル=120円台だったのが、10年10月には1ドル=80円台までドル安・円高が進んだ。

ドル安・円高が進めば、ドルから見た場合の日本の物価水準は上昇する。たとえば、1個=200円のハンバーガーを、1ドル=100円のときに買えば、米ドルで2ドル必要だが、1ドル=80円になったら、同じ200円のハンバーガーでも、米ドルで2ドル50セントが必要になる。

07年以降もデフレ経済の渦中にあった日本経済だが、結局、為替でドル安・円高が進んだため、海外から見た東京の物価は、思った以上に下がらなかった。日本に住み、円で決済している私たちにとって、円高はむしろデフレ要因だが、日本を訪れる外国人観光客にとっては、あらゆるものの値段が上昇するため、その財布にとっては厳しい現実となる。日本が、より多くの外国人観光客を呼び込む観光立国を目指すためにも、ゆきすぎた円高は是正する必要があるだろう。

格差が比較的少ないうえ賃金水準も高い日本

その仕事は平均年収の何倍もらえるのか?
表を拡大
その仕事は平均年収の何倍もらえるのか?

最後に、職種別の賃金も見てみよう。エンジニア、部長、小学校教師、バス運転手、料理人、秘書、銀行員について、その都市の、全職種の平均年収に対して何倍の収入が得られるのかを計算してみた。そこで見えてきたことは、日本や欧米諸国のような成熟経済国よりも、新興経済国のほうが、給与格差は大きいということだ。

さらにいえば、専門職の強い仕事ほど、全職種の平均年収に対する格差が、大きくなる傾向が見られる。つまり新興経済国で、エンジニアや料理人、あるいは専門職とはやや異なるが、部長のようなマネジャーになれれば、少なくともその都市の平均賃金に比べて、高めの給与水準を確保できることになる。

ちなみに東京は、ここに挙げたどの業種についても、それほど大きな給与格差は存在していない。小学校教師やバス運転手の給与は順位が高めだが、どの都市においても給与格差の大きい部長職についてさえ、東京の場合は1.98倍で39位。上位は軒並み4倍以上の格差であることを考えれば、少なくともこの都市はこれまで、いかに管理されたなかでしか競争してこなかったかということがわかる。逆の言い方をすれば、さほど激しい競争をすることもなく、世界的に見ても比較的高い賃金水準が維持されているという点で、やはり東京は住みやすい都市ということがいえる。