強敵ヒラリー・クリントンを破り、11月に行われる米国大統領の最有力候補とされるバラク・オバマ。聞くものの心を震わせる、各スピーチの秘密を徹底分析した。
バラク・フセイン・オバマ・ジュニア
1961年8月4日ハワイ州ホノルルで、ケニア人留学生の父とカンザス州出身のスウェーデン系アメリカ人の母との間に生まれる。その後、母が離婚、再婚したインドネシア人の義父とインドネシアに移住。その後ハワイに戻り、祖父母と生活した。コロンビア大学卒、ハーバード大学ロースクール修了。弁護士として活躍後、97年、イリノイ州議会上院議員に選出。2004年、イリノイ州選出の合衆国上院議員に初当選。07年、大統領に立候補宣言。

絶妙な間の取り方、伝道師の立ち振る舞い

バラク・オバマはなぜあれほど聴衆を魅了するのでしょうか? そこにはスピーチから立ち振る舞いまで相当な訓練に裏打ちされた、用意周到さを随所に見ることができます。若い優秀なスピーチライターを中心に多くのブレーンがついているとはいえ、政治家とは自らの意思、情熱で、限りなく「進化」していくものです。

やや低くよく響く声と、リズミカルなスピーチが、あのジョン・F・ケネディの再来と言われる所以です。プロパガンダ術から見ても、これはと思わせる点がいくつかあります。

まず、絶妙な「間」の取り方。オバマは聴衆に呼びかける際、まずは褒めちぎるのです。厳しい中、みんなが頑張っている、だから今日のアメリカがあるんだと、いわば「おだてる」のです。聴いているほうはグッときて拍手する。オバマは拍手が鳴り止むまでの間、沈黙を保ち、鳴り止んでから再び語り始めるのです。しばし沈黙した後は心からの謝意を言葉で示し、自らの夢と理想を徐々に早口に、大きめの声で語り、一気に盛り上げていくのです。

ヒラリー・クリントンと対照的なのは、ここぞというメッセージを語る聞かせどころでは決して大声を出さないことです。人は自分の本心を語るとき、静かにゆっくりと話しますよね。そうした手法をオバマはよく熟知しているんです。対してヒラリーは甲高い声のシャウトが目立っていました。

オバマの立ち振る舞いは、まるで教会の壇上から説教する伝道師のようです。聴衆を子供に接するかのようにやさしく褒め、讃え、決して怒ったり、非難したりせず、あくまで迷える子羊を手引きしていくかのようにあたたかく諭し導いていくのです。