生産終了はメーカーに見捨てられること
たとえば自分のAIBOを何としても元通りにしたいと考えるオーナーが多数存在している、その願いに応えて、自主的に修理を手がけているソニーOBも現れた。さらには万策尽き果て修理をあきらめたオーナーが、動かなくなった自分の“愛犬”を寺に持ち込み、「魂抜き」の法要を営んでいることも報道されている。
つまり、AIBOは、そのオーナーにとって単なる電気製品ではなく、それ以上の存在なのだ。言うまでもなく、一般の電気製品、いわゆるハードウェアに魂はない。ところがオーナーの中には、日々、自分のAIBOと接することによって“心”を通わせる人がいる。彼らは、自分の“育てている”AIBOが不調になったとき、修理ではなく“治療”してもらいたいと望む。そして万が一、それが無理となってあきらめざるを得ないときには、魂を抜くことで元の“ハードウェア”に戻し、“葬式”をするのだ。こんな電気製品は、AIBO以前には存在しなかった。
現在、“生きている”AIBOのオーナーの数ははっきりとはわからない。しかし、この人たちは、間違いなく、ロボットとの生活という新しい社会現象を起こした先駆者であり、ソニーのファンの中で、最も愛情深いファンだろう。
AIBOの取扱説明書には、補修部品の保有期間は生産終了後7年、とある。したがって、2014年にソニーが補修サービスを打ち切ったときにも、残念の声はあったものの、それ以上の声はあまり聞かれなかった。以降、オーナーもソニーに対して“治療”の復活を望むことはせず、自力でその治療先を探したのも、仕方のないことだ。この間、ソニーがロボットを世に送り出していないという事実によっても、彼らはそれなりにあきらめがついていたと思われる。
ところが、ソニーは今回、イヌ型ロボットの復活を宣言しながらも、旧型については、今後とも関わるつもりはないと説明した。オーナーたちは、果たして、川西氏のこの発言を何の抵抗もなく聞いたのだろうか。さらに、この川西氏の発言を深読みすれば、新しくaiboのオーナーになる人も、いつかは先代のAIBOのオーナーが抱いたのと同じ思いを抱くことになるかもしれない、と解釈できる。
果たしてこれでいいのだろうか。
ソニーに対して最もロイヤリティーの高いAIBOのオーナーに対して、ソニーが「もうあなたのAIBOには関わるつもりはない」と宣言するのは、問題があるのではないか。最悪の場合、彼らがソニーに切り捨てられたという思いにとらわれることはないのだろうか。万が一にもそんな思いにとらわれた人は、二度とソニーの製品には戻ってこない。