そして「当時は世界のコーヒー流通の6割をオランダが占めていた」歴史にちなみ、江戸末期に飲まれたコーヒーを現代風に再現した。当時オランダ領だった、インドネシア産の最高級マンデリンを用い、深煎りで焙煎したのはそのためだ。

さらに縁あって知り合った徳川慶朝氏(慶喜のひ孫)が焙煎を担当した。そうした経緯は以下の記事で紹介したので、ご参照いただきたい(プレジデントオンライン「徳川慶喜ひ孫が"将軍珈琲"を開発した理由」。http://president.jp/articles/-/23273)。

ある出来事にヒントを得て開発――でも、ここまで徹底探究して商品を開発する例は多くない。現代風な味でもあり、「徳川将軍珈琲」は絶好調。コーヒー豆200グラムで1500円(税別)するが、月に1000個以上も売れる。店で出すコーヒーとしても人気だ。

世界最高豆「パナマ・ゲイシャ」を日本に紹介

国際審査員として「ベスト・オブ・パナマ」の審査をする鈴木太郎氏。

一方、鈴木氏の息子・太郎氏(副社長)は、世界最高級のコーヒー豆である「パナマ・ゲイシャ」を日本に紹介する立役者となった。世界的な注目を浴びたこの豆に早くから注目し、生産者であるエスメラルダ農園と親交を深めながら買い付けてきた。

価格の高いコーヒー豆といえば、昭和時代から「ブルーマウンテン」(主にジャマイカ産)が有名で、今でもほとんどの人が「最高級のコーヒー豆」と聞くと、「ブルーマウンテン」を連想するほどだ。だが実は、かなり前に最高級ではなくなった。ハリケーンなどで生産地が打撃を受けて、良質のコーヒー豆の生産が厳しくなったからだ。

「パナマ・ゲイシャ」とは、コーヒーの原産地、アフリカ・エチオピアの“ゲイシャ村”に由来する在来の品種名で、同村と環境条件が似た中米・パナマで生産されるコーヒー豆をいう。初めてその名前を聞く人は、ゲイシャ=芸者をイメージするが、村の名前だ。そうした由来ゆえ、中米のコスタリカ産や南米のコロンビア産など、「ゲイシャ」品種はほかにもある。その中でもパナマ産は最高級で、超高値で取引されるのだ。

東京農業大学を卒業後、グアテマラにあるスペイン語学校や、コロンビアの国立コーヒー生産者連合会の味覚部門「アルマカフェ」でも学んだ太郎氏は、スペイン語も堪能で外国人の友人・知人も多い。コーヒー品評会「ベスト・オブ・パナマ」の国際審査員をはじめ、国内外のコーヒー品評会の審査員を務めている。特に国際審査員はコーヒーの微妙な味の違いを審査したり分析したりする役割で、審査員の中でも選ばれた人が務める。

エスメラルダ農園から「パナマ・ゲイシャ」のサンプル豆をもらい、初めて飲んだ時の衝撃を、太郎氏は「コーヒーなのに、少しハチミツを混ぜた甘いミカンジュースのような味がしました」と振り返る。それ以降、ゲイシャに魅せられた太郎氏は、ほぼ毎年、コーヒー品評会におけるオークションで「パナマ・ゲイシャ」を落札し続けている。