取引コストは、人間関係が密接な日本の組織で生じやすい傾向があります。現状が非効率であったり、不正である場合には、現状を変えるべきですが、その際には、多くの利害関係者と交渉し、説得しなければなりません。優秀な人ほど、その取引コストの大きさをすぐに予想できるため、変えずに現状のまま続けるほうが合理的だと判断する可能性があります。しかも、皆が同じような予想をするため、客観性が保証され、考えも一致しやすい。その結果、組織的に不正を隠蔽したり、非効率な状態を維持することが合理的という不条理に陥ることになるわけです。

神戸製鋼や日産などの場合も、会社の上層部や得意先から納期やコスト面などで厳しい要求を受けたときに、果たして現場がそれを断ることができたでしょうか。「もし自分たちが断れば、いろいろと面倒なことになる(=断る取引コストは高い)。不正をしてでも表面上は要求に応えたほうがよいのではないか」と、合理的に判断したのかもしれません。それも、特定の誰かが明確に命令したわけではなく、関係者同士が暗黙のうちに損得計算をし、同じ計算結果のもとに、互いに合理的に行動することによって、組織的に一連の不正が起きたのではないかと感じます。

神戸製鋼のように不正が何年も続けば、それを正すための取引コストは、さらに大きなものになります。新たに配属された従業員が、現状の不正に気づいたとしても、変革するコストが余りにも大きいため、不正は合理的に継続されてきたのではないでしょうか。

なぜ優秀な人ほど客観的に行動するのか

では、このような取引コストによって生じる不条理な不正は、どうすれば防げるでしょうか。

前述の通り、現状に非効率や不正がある場合、それを変えようとすれば、多大な取引コストが発生します。このとき、もし変えることによって得られるメリットよりも、それに必要なコストのほうが大きければ、非効率で不正な状態を維持し続けるほうが、組織にとっては合理的になります。逆に、変えることによって得られるメリットが、それによって発生するコストよりも大きければ、組織は現状を変えるほうを選ぶでしょう。つまり、現状を変えることのメリットがデメリットよりも大きくなるようにすれば、不正を防ぐことができます(図参照)。