トラウマを抱えた子どもをどう守るか

わたしが医師として勤める「子どものこころ診療部」は18歳までの子どものこころと身体の発達に関する診断と治療を行っている。このような診療所が国内には少ないため、全国から人が訪れ、いつも予約でいっぱいだ。海外からの受診者もいる。

夫のDVで悩んでいたサヤカさんもマミちゃん(現在5歳)といっしょに通院している。マミちゃんにはおもちゃを使った心理治療を継続的に続け、母親にもEMDRと呼ぶ眼球運動によるトラウマ治療をほどこしていった。その結果、マミちゃんの症状は少しずつ改善し、現在では夜中に怖がって泣き出したりすることはなくなり、感情の起伏も落ち着きを見せている。サヤカさんもマミちゃんに穏やかに接することができるようになったという。

現在、サヤカさんは夫と別居し、離婚調停中だ。夫婦が別れて暮らせば結果としてDV問題は解消するが、それでマミちゃんの発達を阻害する不安要素がすべて取り除かれるわけではない。

仮にDVを行っていた父親と離れて暮らしていても、目撃の記憶が原因となってフラッシュバックが起きるため、マミちゃんにはいまは安全だということを根気よく理解させ、安心して生活できるように手厚くケアをしていくことが必要になる。

加害親との同居や面会は避けたほうがいい

このような夫婦間のDVの問題では、親が単身になればDVもなくなるのだから、加害側の親と子どもを同居させたり、面会させたりしてもよいのでは? と考える人もいるが、それは早計だ。配偶者に対してDVを行う人は、子どもへのマルトリートメントを行う傾向も強いため、暴力の対象が、配偶者から子どもへと移る可能性が高いからだ。

たとえ子どもへのマルトリートメントがなくとも、加害親との生活や面会自体、子どもにとっては新たなストレスとなる可能性がある。先に述べたようなフラッシュバックも起こりやすくなり、その結果、子どもに再び身体的・心理的な不安が生じ、脳の発達をも阻害することにつながる点を見逃してはいけない。

また、加害側の親と対面することで、被害を受けていた親のほうが精神的に不安定になり、それが子どもに影響を与えてしまうというリスクも考えられる。