瀬戸際外交だと誤解したアメリカ
北朝鮮はなぜ核兵器開発に邁進するのだろうか。答えはきわめて明快である。核兵器を持っていれば、敵国と見なしているアメリカが報復を恐れて攻撃しない、と考えているからだ。実際、アメリカがイラクを攻めて北朝鮮を攻めないのは、核を保有しているかどうかの違いもあるだろう。
核兵器は1発持つのも100発持つのも、抑止力としては大きな差がない兵器である。核兵器によって地球を1回滅ぼせる国と、100回滅ぼせる国のどちらが脅威かといえば、両方怖い。そういう意味では、少ない数で抑止力を保持できるわけで、北朝鮮は抑止戦略としては合理的なことをしている。
アメリカへの抑止力が目的というのは、金正日時代からずっと発してきたメッセージでもある。03年1月、NPT(核兵器不拡散条約)を脱退。4月に核兵器開発を始めたとき、すでにアメリカに対する抑止力だと発表していた。
しかし、アメリカは北朝鮮の主張を全然聞いていなかった。なぜ核兵器開発をするのかといえば、危機を演出することで交渉相手から譲歩を引き出す「瀬戸際外交」の一環で、物資や支援を求めていると解釈していたのだ。だから無視すれば開発をやめるだろうと考え、オバマ前政権は対話に応じない「戦略的忍耐」の政策を選んだ。そしてアメリカが無視を決め込む間、北朝鮮は核開発を着々と進めていった。この齟齬が、現在にまで至っている。
それから大統領が変わったが、ツイッターを見るかぎり、トランプは抑止力を理解していないように思える。7月に北朝鮮が大陸間弾道ミサイルを発射したときも、「きわめて無謀かつ危険な行為」という声明を発表した。そう応じられると、北朝鮮はますます抑止力を見せないといけなくなる。
逆に「これはアメリカに対する脅威だ」という反応であれば、北朝鮮は「わが国の抑止力を認識した」ととらえ、それ以上の積極的な行動に出る必要性が低くなる。なぜなら、アメリカに「北朝鮮には自国の本土を攻撃する能力がある」と認識させることが目標だからだ。
そのトランプも、北朝鮮のグアム攻撃予告に対し、何かしたら報復措置を取ると警告を発した。こうして「やられたらやり返すぞ」と脅すことが、今度は北朝鮮に対して抑止力になっていく。米ソの冷戦が長引いたように、この膠着状態はしばらく続くだろう。