個人の「働き方改革」ではどうにもならない大企業病

では、企業の生産的時間が失われてしまう要因はどこにあるのか? 大企業病による時間のロスの要因を見ていくと、最もマイナスインパクトが大きいのは「組織構造による非効率」である。組織が大きくなると、縦割りや重階層化によって、意思決定・承認プロセスの遅延といった弊害が出てくる。組織が大きくなればなるほど、利害関係者が増え、何かを決めるのにも複数回のすり合わせや根回しが必要となり、なかなか物事が進まない。そうこうしている間に次のタスクが降ってきてさらに忙しくなる。これが「大企業病」の症状だ。

次いで大きなマイナス要因となっているのは「効率良く仕事を進めるためのプロセス、ツールの欠如」や「社員が集まったときの仕事の仕方が非効率」といった問題だ。仕事を進めていくためには複数の社員あるいは部署での連携が不可欠であるが、こうした連携の巧拙が生産性を大きく左右するのである。

こうした問題は個人レベルの働き方改革ではとうてい対処できない。組織における仕事のやり方そのものを見直さない限り、抜本的な改革につながらないのである。では組織が希少な時間を無駄にするのを避けるためにはどうすればよいのか。

「すり合わせ」ではなく「なすり付け」になっていないか?

事業の拡大に伴い、地域や製品系列ライン、事業部などが増えることは避けられないが、こうした1つひとつの動きが組織の新たな要素を生み出し、他の要素との交わりや相互作用を生む。この各要素が交差する部分を「ノード」と呼ぶが、ほとんどの企業ではこのノードこそが複雑化の根本原因である。グローバルに展開する多くの日本企業でも、商品軸・地域軸に多くのノードが存在している。ノードでの「すり合わせ」を軽視すれば、「あそこの事業は現場との目線合わせが不十分だ」、「あの地域だけ勝手にやっている」といった異物扱いをされてしまうが、それぞれのノードで合意形成を行っていると商品・サービスの展開スピードがどんどん遅れていく。

また、いわゆる「報・連・相」についても注意が必要である。意思決定者やプロセスが明確でない組織でホウレンソウの重要性を説くとどうなるか。部下は自分で責任を取りたくない(取れない)ため、考えうるすべての関係者に報告を入れて責任転嫁をはかるだろう。一歩間違えると、日本企業の特徴でもある「すり合わせ文化」は「なすり付け文化」へと姿を変えてしまうのである。

こうした報告のために割く時間を積み上げると途方もないものになる。報告のためのメールを書く時間、報告書を作成する時間、加えて関係先方々への「根回し」に割く時間……。その多くは組織として成果を出すうえでそもそも必要のない時間である。「ノードを増やさない」という予防・規律と共に、既存の「ノードの断捨離」による組織や意思決定プロセスの再設計ができれば、「失われた時間」は相当程度回復できるだろう。