「オールスターチーム」がつくれない理由

組織生産力の高い優良企業は、限られた「Aクラス人材」でオールスターチームをつくり、社内の最も重要なプロジェクトをさせている。(図2)

一方、それ以外の企業は、配置可能なメンバーでチームを構成したり、能力をバランスさせたチームを構成したり、必要なスキルを元に構成している。この活用方法の違いが組織の生産力の違いを生んでいる。

オールスターチームが生産性にもたらす効果は、量と質における相乗効果だ。たとえば次のような事例がある。

・米国海軍の特殊作戦部隊、シールズの隊員は、並外れた能力の持ち主であり、隊員1人の破壊力は平均的な兵士の10倍。
シールズ隊員10人でチームを編成すると、平均的な兵士の100倍をはるかに上回り、150~200倍に達する破壊力を発揮する。
・イーロン・マスクが手掛ける民間のロケット設計・製造会社、スペースXは人工衛星打ち上げ用ロケットをNASAで開発した場合の1/2以下で実現した。
これは優秀な設計チームの効率と生産性の高さがドライバーだったといわれる。

オールスターチームを1つのプロジェクトに集めるのはある意味「掟破り」かもしれない。メンバーの我の強さが前面に出て、うまくいかないという考え方もある。そもそも「Aクラス人材」は、現業で重要な職責を担っており、オールスターチームとして新たな重要なプロジェクトを担当させることなど容易にはできないという現実的な事情もあるだろう。しかし、日本でも優良企業116社のうち60%強はこれを実践しているのだ。(図3)

日本企業において、オールスターチームの組成を実践できている優良企業とそれ以外の企業の違いは、組織における人材マネジメントの考え方に起因すると考えられる。

(1)そもそも差をつけたくない平等主義
新卒採用を中心とした護送船団方式で、差をつけることによって大多数のモチベーションが下がることへの配慮から、「Aクラス人材」がフォーマルにも、インフォーマルにも選別されていない。定められていても、MBA派遣や一時的な研修を受けさせたりする程度の"差別"にとどまっている。

(2)現業が大事で本社が「Aクラス人材」を動かせない
全社レベルの人材戦略が明確でなく、会社全体を俯瞰できる人材育成に向けた登用・活用の計画が定まっていないことが多い。登用・活用の計画があっても、重要な職務のサクセッションプランがなく、本社が「Aクラス人材」を新たな重要な職責に登用しようとしても「この人を抜かれたら既存事業が維持できない」と事業に拒否される。結果、本社は登用を諦めざるを得ないというケースもしばしば見受けられる。

(3)結果、さまざまな経験を有した強い「Aクラス人材」が育たない
所属部門、いわゆる背番号を超えた組織横断の経験が不十分であり、特定の能力を有する人材がいても、全社目線で複数の経験を有する経営人材候補が枯渇していたりする。

これらがネガティブループとなり、「当社にはできる人材が圧倒的に不足している」「"経営人材がいない」という経営陣の嘆きにつながる。さらに、「組織横断の重要プロジェクトに事業から人を招集するといつも同じメンバーが集まる」ということも起こりがちである。多くの組織横断のプロジェクトが「Aクラス人材」に集まり、「タコ足」状態となり、業務量ばかりが増幅して、1つひとつの業務に本来の力を発揮できない事態を招いてしまう。