製図用シャープペンシルのノウハウを復活させる

実は同社は過去に「自動芯出し機能」が搭載された製品を販売していたことがあった。どちらも自動製図機用のシャープペンシルで、1985年発売の「PP103/105」(0.3mm、0.5mm芯用)、1988年発売の「PP102/104」(0.2mm、0.4mm芯用)だ。

「オレンズネロ」最大のウリである「自動芯出し機能」の秘密は、本体内部にある「ボールチャック」とよばれる2つの球体にある。筆圧がかかった状態ではボールチャックが芯をつかみ、芯が保持される。筆記により芯が摩耗すると、先端パイプも後退する。紙面から本体を離すと、ボールチャックも芯を離す。そのため先端パイプがスプリングによって前進し元の位置に戻ると同時に、芯も一緒に引き出されるという仕組みだ。かつて生産していた自動製図機用シャープペンシルにも、この「ボールチャック」機構が使われていた。これを応用すればよいのだが、2つの課題があった。

1つは、製品加工のノウハウを再び集約させること。製品を組み上げるための図面は社内に残っていたが、加工にはコツがいる。当時、加工を担当していた社員は定年間際。あわてて訪ねて教えを請い、協力会社に渡っていた加工機を再び社内に戻した。こうして「ボールチャック」機構そのものを再現させることができた。2つ目の問題は、製図用と人間用とで筆圧が異なることだった。

自動芯出し機能の原型であるボールチャック機構は、もともと1980年代に自動製図用のプロッターシャープに使われていたものだった。

「やっぱり、機械が書くものと人が書くものは全然違うんです。機械は、垂直に書いていくので、力もどんどん入れて書けるんですけど、人間はシャープペンシルを斜めに持ちますし、筆圧も機械ほど高くないので、実際にこれで組んでみて書いたら書けないんです。文字が薄くなってしまうんですね。それを人の力で書いても普通に書けるようにするために、非常に細かい努力をしました」(同)

こうして人間用にカスタマイズされた「自動芯出し機能」が完成し、2017年2月に「オレンズネロ」は発売された。筆者は取材に先立ち「オレンズ」と「オレンズネロ」をしばらく使用していた。確かに細い芯はきれいにノートが取れる。だがどうしても急いで書くと、筆圧が弱まり、文字が薄くなってしまうのである。これについて丸山氏に聞いたところ「Bや2Bなどの濃い芯で書くと良いですよ」というアドバイスをもらった。取材後、さっそく芯をBに替えてみたところ……確かに“書いている”感が高まった。2Bでもいいぐらいである。折れないシャープペンシルとはいえど、やはり極細芯は筆圧が弱くなりがちだ。もし極細芯に慣れていない人は、ぜひ濃い芯を試してみてほしい。書いているときにバネの伸び縮みを感じるようになったら、それは芯の交換のサインだという。

ぺんてるは常に「新しいことをやりたい」という姿勢に満ちている。次なる新製品発表会でどんな驚きの新機能を盛り込んで来るのか、そしてそれがいつ新製品として世に出て来るのか、楽しみだ。

オレンズネロには、製図用シャープペンシルに多い、12角のデザインが継承されている。
■次のページでは、ぺんてる「オレンズネロ」の企画書を掲載します。