問題は「陸自側の最初の不手際」にある

むしろ、実際、防衛省の内部では、今回の件については稲田氏よりも、陸自側の最初の不手際――最初の情報公開請求で、「日報」の存在を黒塗りにせず、そこから「日報」の存在が判明し、さらなる情報公開請求を招いたこと等々――と、その後の度重なるメディアへの真偽不明のリークへの責任を責める声が大きい。

しかし、いわゆる「保守派」はそうではなかった。関が原の戦いにおける小早川秀秋のように土壇場になって、稲田氏を裏切ったのである。例えば、産経新聞は7月21日になって、一面で「混乱招いた稲田氏言動」と大々的に報じた。しかも、その批判は「奇抜な服装」「国会答弁も不安定」という表面的なものであったし、この段になってわざわざ指摘するべきものでもなかったからだ。それらは最初から明らかだった話であり、それをいまさら指摘するのは、状況の不利を悟っての変節でしかない。

中にはこの期に及んで、得意げに「私は最初は稲田大臣に対して非常に期待していたが、人の上に立つところが薄かった」などという保守派の論者まであらわれた。これも最初から明らかな話だったではないか。過去の防衛大臣のように、防衛省などの副大臣、政務官を務めたこともないし、実務的な防衛政策について論じたこともない。政調会長時代には小所帯の政調会長室の運営すら難儀していたという話もあり、その人物が約25万人の組織を運営できるか否かは容易に想像がついたはずだ。これまで散々持ち上げておいて、今になってそれをいうべきではないだろう。最後まで、義理人情と筋を通したのは月刊『Hanada』編集長の花田紀凱氏ぐらいだったのではないか。

「ハイヒール姿」などで自衛隊の士気は下がらない

他方、産経新聞は、稲田氏が被災地で奮闘する自衛隊員を激励に訪れることすら「響かぬ激励、救援の妨げ」と批判した。もし、稲田氏が被災地へ赴かなくても、赴かなかったことを産経新聞は批判したのではないのだろうか。産経新聞はその2週間後に「稲田防衛相辞任 首相の情けが将来の芽も摘んだ」と見出しで断じているが、少なくとも首相だけでなく、産経新聞の情けともするべきだろう。

防衛省の日報問題で明確になったのは、「軍隊を使って実施する作戦行動であるにもかかわらず安全である」という論理矛盾を抱えた建前を立てなければ何もできない現状と、制服組と背広組の内部対立という深刻な問題であるはずだ。このことは、今後の海外派遣や日本有事にも通じる問題である。今こそ、具体的な防衛省についての政策論や組織マネジメントを議論するべきだ。朝日新聞の報道姿勢や稲田氏のファッションや資質の前に議論すべきなのはそこではないか。